Peter Heller
ハードカバー: 336ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 0307959945
ISBN-13: 978-0307959942
発売日: 2012/8/7
文芸小説/世紀末後の世界を描いた小説
強力なインフルエンザ(flu)とそれに引き続く疫病(blood disease)で人類の99%以上が死滅した世界では、生き残った者たちも残り少ない食品や物資を確保するために殺し合っている。
コロラド州あたりに住む主人公のHigは、愛する妻、家族、友人を失い、唯一残った愛犬のJasperと小さな空港に住んでいる。外部からの襲撃から身を守るために協力しあっているBangleyという男は、銃殺の技術には優れているが冷酷でHigと暖かい友情を分かち合うようなことはない。あくまでもサバイバルのための協力関係である。
コーマック・マッカーシーの『The Road』と似たテーマだが、それよりも希望があるエンディングである。
●感想
主人公のHigは、世紀末的な疫病が蔓延する以前は妻と犬と釣りを愛するシンプルな男性だったのですが、疫病ですべてを失っただけでなく、脳に後遺症があるようです。飛行機の操縦と釣りについてはよく覚えているのですが、星座の名前も思い出せないし、クリアな思考ができません。
Higの思考を反映している文章は、あちこちに飛びますし、何を言いたいのかはっきりしないこともあります。しかし、慣れてくると、このブツ切れの文章の美しさが分かってきます。YAファンタジーの世紀末ものは、現実から離れていて、登場人物や展開は(面白くても)単純です。けれども、この小説にはリアリティがあります。優れた小説ですが、誰もが好きになる小説ではないと思います。
Higは暴力が苦手なようですが、それでも生き残るために人を殺さねばなりませ。また、彼が感情的なコネクションを持つ重要な人々の美点が「冷淡にスキルフルに他人を殺すことができる」というのが心理的に受け入れにくい私のような読者もいるのではないかと思うのです。
生存者同士が助け合うのではなく、保身のために殺し合うというのも、銃がすでに蔓延しているアメリカでは当然の成り行きでしょう。
その過酷な現実のなかで希望を見いだそうとする人々に対し、アメリカの多くの読者は「人間性」を感じ、「美しい」と感じたようです。けれども、銃のない人生を送ってきた私には簡単に受け入れることができませんでした。
多くのアメリカ人読者のように「心から好き」とは言えませんが、非常に良い作品です。
●読みやすさ やや難しい
ネイティブでも慣れるまでは読みにくく感じるようです。
Higの思考が飛ぶので、いま何が起こっているのか把握できないこともあるかもしれません。
けれども慣れたら読みやすくなりますし、短いのも良いところです。
●おすすめの年齢層 高校生以上
性的なシーンや殺戮シーンがあるので、高校生以上。
コメント
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