Julie Kagawa
Harlequin Teen
YA/ファンタジー/妖精/ロマンス/冒険
The Iron Feyシリーズは、出版社がハーレクインであるために読者層が限定されているようだ。だが、実際には人気のTwilightよりもロマンスの要素は少ない。ラブストーリーが中心になっているが、ロマンスシーンはあまり多くなく(描写はキスどまり)、妖精が住むダークな世界での冒険や友情が面白い。完結編が出たので、まとめてご紹介しようと思う。
ルイジアナの田舎に住むさえない16才の少女Meghan Chaseは、弟の誘拐をきっかけに自分がFey(妖精)と人間のハーフだということを知る。弟を救いに妖精の世界(Nevernever)に入り込んだMeghanは、人間の世界とはまったく異なる法に縛られた不気味な世界で、生き延びるための闘いを始める。
だが、その闘いをさらに困難にするのは、冬の王国(Winter Court)の王子Ashとの禁じられた恋であった。
通常の伝説では、Seelieは悪意のない妖精で、Unseelieは悪意ある妖精である(Seelieも信用はできないのだが)。
本書の妖精の世界Neverneverでは、夏の王国Summer Court がSeelie, 冬の王国Winter Court がUnseelieという設定である。この2つの王国は長い歴史の間に何度も戦争をくり返しており、平和の間も冷戦状態である。外交や儀式で行き来する以外には、相手のテリトリーに入ってはならないし、交友や結婚は禁じられている。掟を破ると、殺されるか妖精の世界から追放されるのだが、それもKingやQueenのそのときの気分次第である。
Feyには魂(soul)がないので、感情が希薄である。人を傷つけてもremorse(後悔)がなく、特にWinter Courtでは、思いやりや愛情などの感情は弱さとみなされている。また、Feyは人間から忘れられない限り永久に生き続けるが、魂がないので死んだら「無」になる。
ファンタジーに詳しい人がすでに良く知っているように、妖精の世界では「約束」は絶対である。
favor(援助のお願い)をすると、後でそれ以上のものを要求される恐れがある。だから簡単に人に助けを求めることはしないし、礼も言わない。妖精は「嘘」もつけないのだが、真実をうまく隠すのは得意である。犠牲者にならないよう賢く振る舞いつつも友情や忠誠心を持つのが難しいところ。
●登場人物
Meghan Chase
人間と妖精のハーフ。父はSummer Courtの王Oberon。
Ash
Winter Courtの冷酷な女王Mabの三男。昔Puckと親友だったが、ある出来事で憎しむようになり、「いつか必ず殺す」と誓っている。
Puck - Robin Goodfellow
起源が不明なほど古い妖精で、近年(!)ではシェークスピアの「夏の夜の夢」に登場する。
「夏の夜の夢」のようにSummer Courtの王Oberonに仕えており、王の命令で人間社会に行き、Meghanの親友になりきって16年間彼女を守ってきた。むろん、この手の本には三角関係が必要であり、PuckはAshの恋敵でもある。
伝説のように悪戯好きで、法に背いたり、王の命令を破ったりもするが、Meghanには忠実である。
Grimalkin
神秘的で洞察力があり、妖精の世界で起こっていることを常に把握している猫。
とらえどころがなく、知っていることのほんの一部しか語らない。彼にfavorの負債を抱えている妖精は数限りない。
King Oberon
Summer Courtの王。Meghanの父。
Queen Titania
Summer Courtの女王。Oberonの妻。Meghanを嫌悪している。
Queen Mab
Winter Courtの女王。冷酷で、3人の息子の心理を操って憎み合わせている。
Machina (Iron King)
Summer とWinter Courtが知らずにいた新しい王国Iron Courtの王。
コンピューターやガジェットの普及で、子どもたちが妖精の世界のことを忘れるにつれ、急速に力を持つようになった。
妖精にとって金属(多くの伝説では銀だがここではIron)は猛毒である。この王国ではSummerとWinterの住民は生きることができないが、Meghanは人間のハーフなのでまたく影響がない。
●シリーズの順番
1.Iron King
Winter’s Passage (電子書籍のみのスピンオフ)
2. Iron Daughter
3. Iron Queen
Summer’s Crossing(電子書籍のみのスピンオフ、2012年1月20現在、米国ではキンドルで無料)
4. Iron Knight
●感想
このシリーズの最大の欠陥は、残念なことに主人公のMeghanとAshのキャラクターです。
ティーン読者の夢を叶えるためなのか、多くのファンタジーは表面的な美にこだわりすぎで、それだけでげんなりしてしまいます。特に1部のThe Iron Kingと2部のThe Iron DaughterでのMeghanに対しては、TwilightのBellaに対するような苛立ちを覚えます。でも、3部になると好感が抱けるようになります。
AshもTwilightのEdwardタイプで、いまいち私には魅力的に思えないのですが、完結編のThe Iron Knightではましになります。
メインの主人公2人に問題はありますが、脇役は魅力的です。PuckとGrimalkinが加わると、Ashの性格も面白くなるし、恐ろしい妖精や怪物が住むneverneverの世界での冒険とやりとりが楽しくなります。PuckとAshだと、読者はPuckのほうが好きなんじゃないかと思うんですが、それだと「禁じられた恋」の辛さがないですしね。まあ仕方ありません。
1部には苛つく部分が多いのですが、1部より2部が、2部より3部が面白くなります。
この手のシリーズは完結編がハッピーエンドになるしかないわけですが、最後のIron KnightはTwilightよりずっと賢明なものでした。その点でも、私はTwilightよりも、ずっとましなファンタジーだと思います。
このシリーズには、「夏の夜の夢」以外にも、「ピーター・パン」、「不思議の国のアリス」「ラビリンス」「ハリー・ポッター」など多くのファンタジーを連想させる部分があります。似ていても真似ではなく、neverneverには独自の雰囲気があります。
●読みやすさ 普通〜やや簡単
妖精の世界の特別な用語に慣れている人は、とてもすんなり読めるでしょう。
文法的にはとても簡単です。
●おすすめの年齢
出版社はハーレクインですが、ティーン対象のハーレクイン・ティーンなので、大人のようなロマンスシーンはありません。物語の中心が「ラブストーリー」なのですが、それ以外の冒険や闘いの部分のほうが多いです。そういう意味ではロマンスブックではなく、おとぎ話がベースの冒険ファンタジーと呼べるでしょう。キスシーンはありますが描写はTwilightよりずっとマイルドです。
中学生以上が対象。
コメント
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