ハードカバー: 176ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 0307957128
ISBN-13: 978-0307957122
発売日: 2011/10/5
文芸小説
2011年ブッカー賞受賞作
トニー・ウェブスター (Tony Webster)は、若い頃に夢見た小説のような人生は送らなかった。平凡な職に就き、合理的な女性と結婚し、離婚し、ひとり娘を嫁に出し、60歳を超えた今では、元妻と食事をしたり、ボランティアをする程度の静かな生活をしている。だが、ある日弁護士事務所から、昔のガールフレンドの母親が彼に遺したものがあるという連絡を受け取り、退屈な生活が一変する。
大学時代につきあっていたヴェロニカ(Veronica)の家を訪問したのは一度きりで、彼女の母親のサラ(Sarah)と会ったのは、そのときだけだった。その後トニーはヴェロニカと別れたのだが、高校時代の親友のひとりだったエイドリアン(Adrian)が彼女と付き合い始め、それ以降どちらとも付き合いを断っていたのだった。エイドリアンは、22歳の若さで哲学的な理由で死を選択するメモを遺して自殺をしたのだが、最近亡くなったヴェロニカの母親がトニーに遺したのが、エイドリアンの日記と500ポンドという中途半端な金額だった。
エイドリアンの日記はヴェロニカが所有しており、弁護士を通じて要求してもトニーに引き渡すのをこばんでいる。そこでトニーは直接ヴェロニカにEメールを送り始める。礼儀正しくも執拗にメールを送り続けるトニーに根負けしたのか、ヴェロニカは直接会うことを承諾する。だが、ヴェロニカは、昔のようにミステリアスで、トニーには彼女が考えていることがよく分からない。ヴェロニカと再会してからのトニーは、自分の記憶に残っている過去と実際に起こったことの違いを検証しはじめる。
●感想
本書でのトニーは、アガサ・クリスティの「The Murder of Roger Ackroyd」や、カズオ・イシグロの「When We Were Orphans」で知られる、「信頼できない語り手(unreliable narrator)」です。
ヴェロニカとの交際を認めてくれるよう頼むエイドリアンに宛てて出した自分の手紙に再会したトニーは、読み返して衝撃を受けます。というのは、自分の心が受け入れやすいように歪めて記憶した過去と事実の差があまりにも大きかったからです。でも、誰でも多かれ少なかれ、過去を自分の都合のよいように解釈しているのではないでしょうか。 現在のヴェロニカに、”You just don’t get it, do you?”と言われつつ、トニーが探り当てようとする過去も、歴史に残る事件と同じように、真実を見極めることは不可能なのです。
本書で何度も出てくる「ノスタルジック」という感覚が分かるのは、たぶん40歳を超えた年齢の人々でしょう。トニーが“when we are young, we invent different futures for ourselves; when we are old, we invent different pasts for others.”と言っていますが、そのinventした部分の真実(があるとすれば)を探偵のように探り当てようとする衝動も、ある程度の年齢にならないと分からないのではないかと思います。
過去を探り出しはじめるところから面白くなってきますし、読み直して感心する微妙な表現もあります。けれども、胸にガツンとくるほどのものもなく、「これは考えなかった!」というような驚きもなかったというのが正直な感想です。
●読みやすさ 中程度からやや簡単
一人称ですし、短いので、けっこう簡単に読了できると思います。私はオーディオブックでしたが、家事をしながら1日で終えることができました。オーディオブックにとても適している本です。
●おすすめの年齢層
感想の部分でも書いたのですが、トニーが言う「ノスタルジック」という感覚が分かる年齢層でないと、共感を覚えることができないのではないかと思います。つまり、過去ではなく将来を「でっちあげる」年代の方には向かない本ではないかと思います。
エイドリアンの日記はヴェロニカが所有しており、弁護士を通じて要求してもトニーに引き渡すのをこばんでいる。そこでトニーは直接ヴェロニカにEメールを送り始める。礼儀正しくも執拗にメールを送り続けるトニーに根負けしたのか、ヴェロニカは直接会うことを承諾する。だが、ヴェロニカは、昔のようにミステリアスで、トニーには彼女が考えていることがよく分からない。ヴェロニカと再会してからのトニーは、自分の記憶に残っている過去と実際に起こったことの違いを検証しはじめる。
●感想
本書でのトニーは、アガサ・クリスティの「The Murder of Roger Ackroyd」や、カズオ・イシグロの「When We Were Orphans」で知られる、「信頼できない語り手(unreliable narrator)」です。
ヴェロニカとの交際を認めてくれるよう頼むエイドリアンに宛てて出した自分の手紙に再会したトニーは、読み返して衝撃を受けます。というのは、自分の心が受け入れやすいように歪めて記憶した過去と事実の差があまりにも大きかったからです。でも、誰でも多かれ少なかれ、過去を自分の都合のよいように解釈しているのではないでしょうか。 現在のヴェロニカに、”You just don’t get it, do you?”と言われつつ、トニーが探り当てようとする過去も、歴史に残る事件と同じように、真実を見極めることは不可能なのです。
本書で何度も出てくる「ノスタルジック」という感覚が分かるのは、たぶん40歳を超えた年齢の人々でしょう。トニーが“when we are young, we invent different futures for ourselves; when we are old, we invent different pasts for others.”と言っていますが、そのinventした部分の真実(があるとすれば)を探偵のように探り当てようとする衝動も、ある程度の年齢にならないと分からないのではないかと思います。
過去を探り出しはじめるところから面白くなってきますし、読み直して感心する微妙な表現もあります。けれども、胸にガツンとくるほどのものもなく、「これは考えなかった!」というような驚きもなかったというのが正直な感想です。
●読みやすさ 中程度からやや簡単
一人称ですし、短いので、けっこう簡単に読了できると思います。私はオーディオブックでしたが、家事をしながら1日で終えることができました。オーディオブックにとても適している本です。
●おすすめの年齢層
感想の部分でも書いたのですが、トニーが言う「ノスタルジック」という感覚が分かる年齢層でないと、共感を覚えることができないのではないかと思います。つまり、過去ではなく将来を「でっちあげる」年代の方には向かない本ではないかと思います。
こんにちは、Monaさん。
「好き!」とは言えないタイプの小説ですよね。でも、技巧は尊敬に値する、という感じ。
ふだんこういう小説を避けているところがあるので、たまには我慢して読むのもいいかな、なんて思いました(笑)。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2011/11/07 13:16
こんばんは。読んでみて漠然と腑に落ちない感じがしましたが、もしかしてそれこそこの小説が意図するところか!?と思って感心もしております。「引っかかる」のも心に残る小説といえるんでしょうか…
投稿情報: Mona | 2011/11/06 10:22