Patrick Rothfuss
ハードカバー: 1008ページ
出版社: DAW
(2011/3/1)
ファンタジー
Patrick Rothfuss(パトリック・ロスファス)のKingkiller Chronicles(キングキラー・クロニクル)三部作の第二部。
中世ヨーロッパに似た架空の王国が舞台で、物語は、さびれた村の宿屋で始まる。宿屋のさえない主人Koteは、 実は悪名高い伝説の存在Kvotheだった。 何者かから逃れるために偽名を使っているようなのだが、そこに伝記作家のChroniclerが現れる。最初は断るつもりでいたKvotheだが、彼が語る「真実」のみを書くという約束で3日にわたって自分の生涯を語ることにする。
Kvotheは、ジプシーを連想させる旅回りの芸人種族Edema Ruhの生まれである。伝説の恐ろしい存在Chandrianに両親と家族に等しい集団を惨殺されてから一人で極貧を生き延びた彼は、幼い頃に憧れた魔法の知識と技術を教える唯一の教育機関であるUniversityにたどり着く。並外れた才能と知恵がある彼は15歳という若さでUniversityに入るが、敵も多く作り、学費を払えずに苦労する。
第二部のThe Wise Man’s Fearは、Kvotheの語り第2日めである。Kvotheは、大学(University)での宿敵Ambroseのために何度か窮地に陥り、大学を休学してSeverenという遠い町でその地区の支配者Maerに仕える。Maerの命を救い、結婚させてやり、税金を奪う盗賊を退治するが、それに見合った待遇を受けることなく追いやられる。しかし、この過程でKvotheは、風の名前を呼ぶ魔力を鍛え、特殊な武力を身につけ、後に人びとが畏怖と憧れをもって語る神話の数々を作りあげる。
作者は第一部を発売する前に10年かけて作品の骨格は書き終えており、第二部のThe Wise Man’s Fearは当初2009年に発売される予定だった。しかし、初稿はレター用紙で3袋分(1500枚)以上の分厚さ。スペルチェックだけで6時間かかったという代物。当然、書き直しにつぐ書き直しで、発売が2011年3月に延期されてしまった。第二部の発売そのものが「神話化」してしまったというカルト作品である。
●ここが魅力!というよりも、説明しはじめたらきりがないほど魅力的!
タイポではありません。1008ページです。
それも、老眼には酷な細かい字でびっしり。
でも、これほど短く感じる1000ページはありません。読み終わると「もっと長くして欲しかった」と思うのですから。
それがPatrick RothfussのKingkiller Chroniclesの魅力です。
なぜこんなに面白いのか考えてみたのですが、たぶん読者が主人公Kvotheになりきって体験できるからでしょう。若く、魔力の才能があり、素晴らしい音楽をluteで奏でることができ、知恵もあるのですが、決して善人ではありません。お金を得るために法に触れるようなこともするし、気に入らない人間には、損だと知りつつ思ったことを言ってしまう短気さもあります。わざと謎めいた伝説を広めたりもする見栄っ張りなところもあります。女性にけっこうモテて好き勝手なことをしているくせに、ひとりだけ好きな女の子がいて、彼女と一緒のときにはシャイになる。でも、そういったアンバランスな「smart ass」なところが、読者にとってかえって感情移入しやすいところなのだと思います。
この物語のもうひとつの魅力は現在進行形の「謎」です。回想のKvotheは、若き天才らしく自信過剰で大胆です。また、見返りを求めない正義感とずる賢いところが共存し、嫌いな人間を操る演技力があるくせに、怒りを爆発させたり、小賢しいことを言って窮地に陥ります。けれども、それを語る宿屋の親父Koteは、臆病と言えるほど落ち着きがあり、かつて持っていた強力な魔力と武力はもはや持ち合わせていないようです。なぜ彼はこうなってしまったのでしょう?そして、彼をReshiと呼んで尊敬する手伝いの若者Basteも謎の存在です。実はfae(日本語だと妖精ということになるが、もっと邪悪な存在とみなされている)の王子Bastasなのですが、彼がKvotheと一緒にいるのはなぜなのでしょう?そして、回想のKvotheがずっと愛して来た風変わりな女性Dennaが抱える謎とは?彼女は現在どこで何をしているのか?
そして何よりも、現在の3日目にKoteが語り終えたときに、何が起こるのか?
今から「あと何年たてば第三部を読めるのですか?」と作者を責めたくなってしまうのは、私だけではない筈です。
まだの方は、絶対にThe Name of the Windを読むべきです。
私は甥や娘の友人に本をプレゼントして、ドミノ効果で何十人にもファンを広めました。
最近も娘の同級生のお母さんから「The Name of the Wind読んでるんですよ。息子から薦められたのですけれど、元を正すとYukariだったのね」と言われてニタリとしたくらい効果は長続きしています。
分厚さに怯えず、まあ、試してみてください(ただしThe Name of the Windの最初の100ページくらいはスローなので、我慢すること)。
●読みやすさ 普通〜やや難しい
ファンタジーとして面白いだけでなく、文章が素晴らしいのが魅力です。
けれども簡単な本ではありません。
これまで英語の本を読みこなしている必要はあります。
けれども、邦訳ではなく、英語で読んで欲しい本です。訳が悪い、というわけではなく、邦訳でこの独自の雰囲気を伝えるのは不可能じゃないかと思うからです。どんなに上手な翻訳者でも、たぶん無理でしょうね。
日本語版があまり売れていないのは、そういう理由があるのじゃないかと思います。著者ロスファスとそれについて何度か意見を交わしたことがあるのですが、私なら翻訳に挑戦する前からお手上げです。
英語が苦手なら、ぜひ日本語を読んで物語を把握してから挑戦してください。
●対象となる年齢
今回はラブシーン的なものがあります。
なんといっても男を魅惑して命を取る(伝説の人魚のような)Felurianが出てきますからね。
露骨ではありませんが、意味が通じないでしょうし、一応高校生以上が対象です。
コメント
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