Tom McCarthy
ハードカバー: 320ページ
出版社:Knopf (2010/9/7)
文芸小説/2010年ブッカー賞候補作
Serge Carrefaxは、1898年に英国南部で生まれる。父は聴覚障害者の学校を経営するエキセントリックな発明家で、かつて父の学校の生徒だった母親は絹工場を経営している。Sergeと姉のSophieは、父や家庭教師、父の友人のWidsunなどの影響で、それぞれ、無線通信と自然科学(虫)に熱意を抱くようになる。
暗号解読者のWidsunは、Sophieを誘惑したばかりではなく、彼女に暗号を教え込む。思春期にさしかかったSophieは、Widsunの影響で自然界にすら二重の記号を見いだして精神が不安定になり、青酸カリで自殺する。
Sophieの死後、Sergeは体調を崩してヨーロッパ大陸のスパで療養し、さらに無線にはまりこんでゆく。彼もまた、Widsunの援助で無線オペレーターとして参戦する。ヘロインとコカインの味を覚えたSergeは、ロンドン、エジプト、と場所を移動しながら、自分を取り巻く世界に潜んでいるシンボルを見いだす。
●感想
本日発表のブッカー賞の最有力候補といわれています(私はRoomにとって欲しいと思います)。追記:ブッカー賞受賞作品はThe Finkler Questionでした。
無線通信が開発され、それが戦争で使われるようになった時代を舞台にしていますが、歴史小説といった感じではありません。character development(人物の性格や人となりをしっかりと作り上げること)や人物描写、情やドラマ性を故意に取り除いた、いわゆる「アンチ小説」というもののようです。トーマス・ピンチョン、ジェイムス・ジョイスの流れをくんだ感じでしょうか。
作者の意図ですから、主人公のSergeと姉のSophieに感情移入することは不可能です。4つのパートにはそれぞれCaul, Chute, Crash, Call とCで始まるタイトルが就いています。それ以外にも、多くのCが暗号のようにSergeの人生にかかわってゆきます。
高校生の頃であったら、私はこの小説を楽しめたし、ぞっこん惚れ込んだかもしれません。けれども、現在の私の頭に何度も浮かんだのは「pretentious」という形容詞です。「文学好きのための文学」と評価されているようですが、多くの文は、不要に長く、それによって何を達成しようとしているか不明でした。また、Sophieの死の場面でも劇的に無感動なシーンにしようとしたのでしょうが、青酸カリ中毒の人が椅子に座ったまま固まって死ぬようなことはあり得ないでしょう。すべてが作り事、という態度であれば、まあそれでもけっこうですが、最後までつき合っても、あまりrewardを感じませんでした。
オリジナルな作品であることには異論はありませんし、情や人間関係といった泥臭いものから離れて人生や世界のもっと大きな意味を考察するインテリジェントな小説という見方もあるかもしれませんが、それが成功しているようにも思えなかったのです。
単純に、私の趣味ではないというだけかもしれません。
判断は読者ひとりひとりにおまかせしたいと思います。
●読みやすさ
洋書を読み慣れていて、しかも文学中の文学が好きな人でないと読み進めにくいと思います。不必要にも思える描写が延々と続きます。それが好きな人もいるでしょうが、(ネイティブで本も書いている)私の夫なら20ページくらいでゴミ箱に捨てること確約の本です。
コメント
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