英国では2009年1月発売
米国では2010年6月29日発売予定(私が読んだのは米国版)
現代文学(大衆文学)/Chick Lit
由緒あるオークションハウス、サザビーズを突然辞めたフィービー(Phoebe)は、ロンドン郊外にビンテージドレスの店 Village Vintage を開く。突然思い切った行動に出たきっかけは、幼い頃からの親友エマ(Emma)の突然死と、それが原因になった婚約解消だった。
傷心のフィービーだったが、オークションで競り合った15歳年上の裕福な紳士マイルズ(Miles)や明るくてちょっと変わり者の新米ジャーナリストのダン(Dan)と知り合い、新しい恋の気配が...。また、衣装の買い取りを通じて出会った老女ベル夫人が同じような心の傷を抱えていることを知り、生き別れになった彼女の親友の消息を探し当てようとする。
マダム・グレ、シャネル、ギ・ラロッシュ、カルダン、オジー・クラーク、などビンテージドレスの数々、フランスのぶどう園、お金持ちの紳士、ミケランジェロのダビデのようなハンサム...と女性が好きそうな「うっとり」ファクターたっぷりで、しかも老女との心温まるサブストーリーも含まれている典型的なChick Lit。
(右の写真はParfums Gresから引用したマダム・グレのドレス)
●感想この間「そういえば、洋書ファンクラブでchick litを紹介してないなあ」と気付いたので、意図して選んだのがこの新刊 A Vintage Affairです。
Chick とはアメリカのスラングで若い女性、Lit は literatureの省略語、つまりchick litとは「女性向けの文学」なんですが、女性を被害者として表現するきらいがあるフェミニズムの匂いはなく、逆にポストフェミニズムの女の子っぽい恋愛中心の軽い文学のことです。例えば、Bridget Jones、Confessions of a Shopaholic、The Devil Wears Prada、などがそうです。
チックリットとロマンスブックの違いは、チックリットが性的表現は非常にマイルドで、それよりも若い女性がうっとり夢見る別のファクター(素敵な場所や綺麗なモノが登場する。華やかな業界で働く普通っぽい女性が主人公で、お相手も上流階級かお金持ち)があれこれ含まれていることが重要です。また、ユーモアや人情も重要です。
この本にはそういうものが全て含まれているのですが、残念なのは、先が読め過ぎてしまうこと。そして、登場する男性がみんな「ハンサムでお金があって...」過ぎること。だからかえって全然魅力的ではなくて、つまらなく感じてしまいました。
それから、昔からよく思うのですが、英国のchick litに出てくる女性は、米国のchick litに比べて主人公から全然フェミニズムの匂いがしません。「おばかで甘えんぼでごめんね。でも、そういうところが可愛いでしょ?」的なところがあって、私はぜんぜん闘うフェミニストじゃないのですが、「ええかげんにしろ!」とどやしたくなるときがあります。この主人公もばりばりのビジネスウーマンの筈なんだけれど、なんか「現実ってそんな甘くないよ〜」という感じでした。それから今どき新聞のビジネスで金儲けできるなんて、あり得ません。もう少し、今の世の中を反映した筋書きにして欲しかったです。
とまあ、あれこれ難癖を付けましたが、私が気に入ったのは、舞台がBlackheathだったことです。ここはロンドン郊外のグリニッジに隣接する場所で、私はこの近くの町に住んでいたことがあるのです。一度夜のバスで眠り込んでしまって、目が覚めたら真っ暗なバスの中にひとりきり残されていた、という出来事がありました。 外を見るとBlackheathのバス終着点の駐車場。そのときの「うああああ。何が起こったんだ????」気分は一生忘れられません。買い物によく行ったLewishamとかも出てくるし、それがとても懐かしかったです。
安心して気軽に読める、という点で、仕事で疲れた後にぴったりの本です。
●読みやすさ 中程度〜やや読みやすい
難しい話は殆どありませんし、ときおり出てくる仏語も、その前後に英語で説明されていたり、知らなくて良い程度です。
●アダルト度
セックスを示唆する場面はありますが、描写はありません。その辺がロマンスブックとは異なるところです。YA向けのロマンスファンタジーよりつつましいものです。
高校生以上
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