Michael Crichton
320ページ(ハードカバー)
Harper
2009/12/1
冒険小説
次に何を書いてくれるのか楽しみにしていたファンにとって、2008年11月のクライトンの急逝はおおいにショックだった。ただの娯楽小説作家だと馬鹿にする文芸スノッブもいるだろうが、あのとんでもない空想力が消えてしまったのは、人類にとっての損失だと私は思っている。
クライトンの死後にコンピュータに残されていた完成原稿がこのPirate Latitudesだ。もう1作のテクノスリラーは残念ながら1/3程度しか書かれておらず、これについては出版社が完成してくれる作家を探しているらしい。
Pirate Latitudesは、表紙を見れば想像がつくように海賊の話である。
時は1665年、カリブ海領域はスペインがほぼ支配しており、ジャマイカを拠点にしている英国とスペインとの関係は表面的な平和条約が取り交わされているものの敵対的なものであった。 ジャマイカを拠点とする英国の海賊たちはPirateではなく「privateer(国の任命ではなく個人運営の船業)」と自称しており、ジャマイカは「郷に入れば郷に従え」的な知事のSir James Almontの統括のもと公的なルールに従ったスペイン船からの略奪で栄えていた。この収入は英国そのものの収入でもあったのだ。
そのprivateerの中でも最も悪名高く、愛される存在が Charles Hunterである。
このHunter、誰もが真っ先に連想するのが、ジョニー・デップの演じたCaptain Jack Sparrowであろう。残酷だけれどそれがクール、娼婦から貴婦人まで虜にする性的魅力たっぷり。野蛮なのに上流出身のハーバード大学で学んだ知識人。そのうえ怖いもの知らずの冷静な船長、という設定はちょっとできすぎだが、自己投入するのにはぴったりのキャラクターだ。 だからこそ女性読者よりも男性読者向きのキャラクターといえる。
Almontとの正式な契約で、Hunterは宝が満載しているスペイン船を略奪する計画を立てる。そのスペイン船が隠されている Matanceros島は完璧に守られ、誰一人生還したことがないと恐れられている。しかもそこを統括するのは、残忍さでは右に出る者がいないと言われるCazallaだ。Hunterは、爆発物を作る天才のユダヤ人 Don Diego de Ramano、床屋と外科医兼業の航海のアーティストEnders、男装の女海賊 Lazue、天賦の人殺しの才能があるSansonなどの特異なメンバーを集めて、不可能な冒険を始める。
私がまず惹かれたのは、カリブ海の雰囲気だ。私はジャマイカには行ったことがないが、コスタリカ、バルベドス、そしてこの小説の舞台Matanceros(実際に存在するのかどうか地図で調べたが見つけることができない)に近いプエルトリコとセント・マーティン島に行ったことがある。ページをめくるたびに、あの気が狂いそうな熱さ、灼熱の太陽、地面の穴に巣を作るタランチュラ、ラムの味が蘇る。バルベドスで泊ったホテルは海賊貴族が建てた城で、それらを思い出しながら読めたのが楽しかった。
物語の展開は一難去ったら、また一難。すでに映画のような小説である。 時代と場所の設定は異なるが、The Great Train Robbery とよく似ている。すると、映画は(カリブの海賊+大列車強盗)÷2で、Hunterは(ジョニー・デップ+ショーン・コネリー)÷2ということになるのだろうか。残念ながらクライトン自身が監督と脚本を務めることはできないが、スピルバーグが映画権を獲得したということなので面白い娯楽作品になることだろう。
残念なところは、完成度がいまひとつだということ。出版社に渡していなかったということは、本人がまだこれから書き直すつもりだったということだ。また、クライトンに特有の手に汗を握るハラハラどきどき度も低い。もう少し時間が残されていたら、きっともっと良い作品になっただろう。
●読みやすさ ★★★☆☆
航海についての専門的な説明などもありますが、簡潔で読みやすいのがクライトンの良いところです。
●アダルト度 ★★★☆☆
320ページ(ハードカバー)
Harper
2009/12/1
冒険小説
クライトンのJurassic Parkの成功は後のハリー・ポッターに匹敵するセンセーショナルなものだった。だが、彼は一つの成功に固執して同じテーマの作品を書き続けることはなかった。Disclosureではセクシャルハラスメント、Rising Sunでは日本の経済的脅威、Preyではナノテクノロジー、と他の誰も書いていないような斬新なテーマに挑戦し続けた。
多様な作品に共通していたのが綿密な調査に基づいた知識の基盤、手に汗を握る展開、簡潔で明瞭な文章力と娯楽性、であった。次に何を書いてくれるのか楽しみにしていたファンにとって、2008年11月のクライトンの急逝はおおいにショックだった。ただの娯楽小説作家だと馬鹿にする文芸スノッブもいるだろうが、あのとんでもない空想力が消えてしまったのは、人類にとっての損失だと私は思っている。
クライトンの死後にコンピュータに残されていた完成原稿がこのPirate Latitudesだ。もう1作のテクノスリラーは残念ながら1/3程度しか書かれておらず、これについては出版社が完成してくれる作家を探しているらしい。
Pirate Latitudesは、表紙を見れば想像がつくように海賊の話である。
時は1665年、カリブ海領域はスペインがほぼ支配しており、ジャマイカを拠点にしている英国とスペインとの関係は表面的な平和条約が取り交わされているものの敵対的なものであった。 ジャマイカを拠点とする英国の海賊たちはPirateではなく「privateer(国の任命ではなく個人運営の船業)」と自称しており、ジャマイカは「郷に入れば郷に従え」的な知事のSir James Almontの統括のもと公的なルールに従ったスペイン船からの略奪で栄えていた。この収入は英国そのものの収入でもあったのだ。
そのprivateerの中でも最も悪名高く、愛される存在が Charles Hunterである。
このHunter、誰もが真っ先に連想するのが、ジョニー・デップの演じたCaptain Jack Sparrowであろう。残酷だけれどそれがクール、娼婦から貴婦人まで虜にする性的魅力たっぷり。野蛮なのに上流出身のハーバード大学で学んだ知識人。そのうえ怖いもの知らずの冷静な船長、という設定はちょっとできすぎだが、自己投入するのにはぴったりのキャラクターだ。 だからこそ女性読者よりも男性読者向きのキャラクターといえる。
Almontとの正式な契約で、Hunterは宝が満載しているスペイン船を略奪する計画を立てる。そのスペイン船が隠されている Matanceros島は完璧に守られ、誰一人生還したことがないと恐れられている。しかもそこを統括するのは、残忍さでは右に出る者がいないと言われるCazallaだ。Hunterは、爆発物を作る天才のユダヤ人 Don Diego de Ramano、床屋と外科医兼業の航海のアーティストEnders、男装の女海賊 Lazue、天賦の人殺しの才能があるSansonなどの特異なメンバーを集めて、不可能な冒険を始める。
私がまず惹かれたのは、カリブ海の雰囲気だ。私はジャマイカには行ったことがないが、コスタリカ、バルベドス、そしてこの小説の舞台Matanceros(実際に存在するのかどうか地図で調べたが見つけることができない)に近いプエルトリコとセント・マーティン島に行ったことがある。ページをめくるたびに、あの気が狂いそうな熱さ、灼熱の太陽、地面の穴に巣を作るタランチュラ、ラムの味が蘇る。バルベドスで泊ったホテルは海賊貴族が建てた城で、それらを思い出しながら読めたのが楽しかった。
物語の展開は一難去ったら、また一難。すでに映画のような小説である。 時代と場所の設定は異なるが、The Great Train Robbery とよく似ている。すると、映画は(カリブの海賊+大列車強盗)÷2で、Hunterは(ジョニー・デップ+ショーン・コネリー)÷2ということになるのだろうか。残念ながらクライトン自身が監督と脚本を務めることはできないが、スピルバーグが映画権を獲得したということなので面白い娯楽作品になることだろう。
残念なところは、完成度がいまひとつだということ。出版社に渡していなかったということは、本人がまだこれから書き直すつもりだったということだ。また、クライトンに特有の手に汗を握るハラハラどきどき度も低い。もう少し時間が残されていたら、きっともっと良い作品になっただろう。
●読みやすさ ★★★☆☆
航海についての専門的な説明などもありますが、簡潔で読みやすいのがクライトンの良いところです。
●アダルト度 ★★★☆☆
ラブシーンはありますが、それほど露骨ではありません。でも娼婦は出てくるし、女性は簡単に身を投げ与えるし、殺人シーンは多いし、そういった意味では子供向けではありません。
マイケル・クライトン:Amazon.co.jp
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