Oscar Wilde
初版:1891年 by Messrs Ward, Lock & Co. (London)
先日娘がナンタケット島で私が若い頃に買ったThe Picture of Dorian Grayをみつけ、「面白い!」とすっかりWildeにはまってしまったようです。どこがそんなに気に入ったのか訊ねると、どうやらWildeのwickedなウィットにあるようです。
そこで私も読み直してみたところ、確かにとっても”quotable(引用に適した)”名文句が多い小説なんですね。それも皮肉たっぷりで邪悪な...
この本を買ったときにはまだそこまでの英語力がなかったので、筋を追うことに必死でこれらのウィットを楽しむゆとりがありませんでした。これまでに読んだことのある方や、日本語で読んであらすじを知っている方は、ぜひ一度英語で読み直してみてください。
特に最初の半分にはハイライトを入れたくなるような表現が沢山ありますから。
(あらすじ)
画家のBasil Hallwardは、若くて美しく裕福なDorian Grayに出会い、これまでにない情熱にかられて肖像画を描く。その肖像画はこれまでの最高傑作だったが、BasilはDorianへの思いを表現しすぎている肖像画を展示することを拒否し、Dorian本人に贈る。
Basilの友人で皮肉なウィットに富んだLord Henryに出会ったDorianは、瞬く間に彼の影響を受ける。これまで自分の美とその影響力を知らず、単純でイノセントだったDorianは、Lord Henryに出会ったおかげで将来老いて醜くなった自分に失った若さと美を見せつけるであろう肖像画を恨む。そして、自分がこの若さを保つことができ、かわりに老いるのがこの肖像画であってくれるなら何でも与えると願う。
("How sad it is! I shall grow old, and horrid, and dreadful. But this picture will remain always young. It will never be older than this particular day of June. . . . If it was only the other way! If it was I who were to be always young, and the picture that were to grow old! For this--for this--I would give everything! Yes, there is nothing in the whole world I would not give!")もともと単純で影響を受けやすいDorianは、Lord Henryの洗脳と彼から与えられた悪徳に満ちたフランスの本の影響を受け、残酷さを身につけてゆく。だが、数々の罪悪に満ちた行動にもかかわらず、Dorianは若く美しいままで、肖像画だけが彼の魂を反映して醜く老いてゆく。
●ここが魅力!
まず楽しめるのは英国のVictorian時代の貴族の生活の雰囲気です。この本にも書かれているように「何もせずに遊んでいる」のが良き貴族のあり方で、ランチの後ですぐにディナー、あとはオペラで午前様、翌朝(?)は午後2時までぐっすり、という貴族の生活を想像することができます。また、ヴィクトリア時代は非常に道徳的な時代でした。女性がほとんど肌を露出せず、貞節さや慈善が重んじられていたこの時代にThe Picture of Dorian Grayがどれほどスキャンダラスな小説だったか想像するのも面白いです。それと当時の英国人のアメリカ人に対する意地悪な評価にも優越感の陰に怯えと嫉妬がみえかくれして苦笑い。
また、これはファウストの現代版(1890年にとっては)なんですよね。DorianがFaustでLord Henryがそれをそそのかす悪魔の役割です。
そこで魅力はなんといってもLord Henryの悪魔のささやきである quotableな名文句の数々です。後半陳腐な感じになってくるのですが、前半には「おおお、これは使ってみたい」と感じる名文句が連発します。英国貴族特有の知的かつ皮肉なウィットに満ちたもので、きっとWildeや彼の友人たちの間ではこんな会話がよく交わされていたのでしょう。
“It is in the brain and the brain only, that the great sins of the world take place also.”
“I choose my friends for their good looks, my acquaintances for their good characters, and my enemies for their good intellects. A man cannot be too careful in the choice of his enemies. I have not got one who is a fool.”
“I never approve, or disapprove, of anything now. It is an absurd attitude to take towards life. We are not sent into the world to air our moral prejudices.”
" . . . there is only one thing in the world worse than being talked about, and that is not being talked about."
高校のころ私の友達(特に男子生徒)がよく読んでいたのは、この知性をひけらかすことができそうな名文句の数々にあったのではないかと思うのです。
それにしてもWildeって女性に厳しいゲイだったんだな〜と感心します。このLord Henryの台詞をみてくださいよ。
“My dear boy, no woman is a genius. Women are a decorative sex. They never have anything to say, but they say it charmingly. Women represent the triumph of matter over mind, just as men represent the triumph of mind over morals.”
Lord Henryがめちゃくちゃにこき下ろしているだけでなく、知性のある女性はまったく登場してきません。というか、登場する男性もLord Henryを含めてみんな浅はかなんで、「あんたにそんなこと言われたくないよ」って感じですが。それと、以前ご紹介したThe Awakeningがちょうどこの時代の作品なんですよね。英国と米国の差、男女の視点の差などを比べてみると、なかなか感慨深いところがあります。
一番浅はかなのはDorianですが、若さと美しさは真の芸術なんで許されるみたいです。でも、知性ゼロでも許されるほど美しい人に会ったことがない私にはその気持ちがよくわかりません。
まあ、そういうのも含めて今でも現代的に感じる娯楽作品です。
●読みやすさ ★★★☆☆
読み直してみて、思ったよりも読みやすいことに気づきました。
スラングもなければ、現代の英米文化や政治を理解している必要もなく、日本人にとってはかえって現代小説よりも読みやすい小説だと思います。
古くさい表現はもちろんありますが、けっして読みにくくはありません。
もし読みにくい部分があるとしたら、Lord HenryやBasilの回りくどい会話でしょう。でも、会話こそがこの本の面白さなので、できれば飛ばさずに楽しんでください。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
Victoria時代の小説ですから、暗示だけで直接的な描写はありません。
●無料購読サイト
The Picture of Dorian Grayは著作権が消滅したクラシックですから以下のサイトで無料で読むこともできます。
コメント
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