Stieg Larsson
512ページ
2009年7月28日発売(米国。英国ではもっと前に発売。日本ではさらに早くてもう第三部も販売されています)
前回のThe Girl With The Dragon Tattoo でMikael Blomkvistの敵からハッキングで大金を得たLisbeth Salanderは、Blomkvistに失恋し(と勝手に決め込み)、彼の存在を頭から抹消することにして海外を放浪する。突然連絡を絶たれたBlomkvistはまったく理由がわからずにSalanderに連絡を取ろうと試みるが努力は報われない。
それから約2年後、Blomkvistが発行するMillenniumが警官や判事などがからむ性的奴隷のヒューマントラフィッキングのルポを出版する準備に追われているとき、ルポを書いていたジャーナリストと研究論文を書いていたガールフレンドが殺害される。ジャーナリストたちを殺害した武器の所有者はSalanderの後見人で、彼もその夜殺害されていた。武器にSalanderの指紋があったために、彼女は突如容疑者として追われる身になる。
スウェーデン全体がSalanderを危険な殺人者とみなしている中、Blomkvistは頑にSalanderの無実を信じて真相解明に乗り出す。
彼のコンピューターをハッキングしたSalanderとようやく連絡が取れたが、彼女は謎の人物「Zala」について謎めいたヒントを与えるだけだった。Zalaは性的奴隷の密輸のみならず、Salanderの過去と深く関わっているようだ。しかし、他人を信じないSalanderは、Blomkvistを情報収集の手段として多少は利用するが、助けを求めず、あくまで自分の力だけで解決しようとする。
複雑なプロットとSalanderの超人的で痛快な行動力は最後まで読者を飽きさせない。
●ここが魅力!
まずは登場人物の面白さとディテール、次は何層にも折り重ねられた複雑なプロットと先が読めない展開です。
もっとも魅力的な人物はもちろんThe GirlのLisbeth Salanderです。アスペルガー症候群らしく普通の人間関係が持てず、冗談も通じません。医療記録には知能発達遅延と記されていますが実は超人的な頭脳の持ち主で天才的なハッカー、小柄で痩せっぽちなのに大柄の男性を打ちのめす冷徹な凶暴性もあります。前回もすてきだったけれど、脇役に追いやられた感があってそれがちょっと不満でした。でも今回は本当に中心人物!という感じで、しかもめちゃくちゃカッコいいのです。数学のフェルマーの最終定理 がそれとなく登場するのも心憎い演出です。
もう一人の中心人物Mikael BlomkvistとLisbeth Salanderのラブストーリー(?)も、まったく他の小説とは異なるユニークさで、(ネタバレになるので詳細を語れないのが残念ですが)奇妙にロマンチックで説得力があります。Blomkvistは人妻や年上の女性から誘われれば絶対に断らないし、Salanderはセックスはマッサージ同等の娯楽にとらえているようで相手が男女どちらでもこだわらないくせにBlomkvistに対してプラトニックに近い恋心を抱いています。ピューリタンの国アメリカの作家は決して書かない(というか書けない)だろうというヒーローとヒロインです。
脇役が沢山出てくるのですが、Stig Larssonは彼らも一人一人丁寧に描いています。出来事もそうです。ジャーナリストらしくすべての出来事の詳細が語られ、それが謎解きやストーリーラインに重要なのかどうか、こちらにはなかなか見えてきません。最後まで「あの出来事は後に重要になるのだろうか?」と何度もいぶかしく思った部分がありました(これもネタバレになるので秘密)。通常のミステリー/スリラーであれば、プロットに無関係な詳細を書くと「編集でカットされるべきだった」という批判の対象になりますが、この本に関しては、それらの詳細そのものが面白く、まったく邪魔には感じませんでした。まるでBlomkvistや警察と一緒に調査をしている気分になります。
ミステリー慣れしている私はけっこう終わりを予想するのが得意なのですが、これは半分すぎても「いったいどうなってるのか?」と予想ができませんでした。後半になってようやく見えてきますが、それでも意外性は残ります。
今年読んだミステリ/スリラー(ご存知のようにけっこうな数読んでます)のなかで文句なしの最高傑作です。前回のThe Girl With The Dragon Tattooですっかりノックアウトされたのですが、ミステリーとしても小説としてもずっと良い出来です。
この3部作はあと1冊で終わりです。作者のLarssonがこの三部作完了直後の2004年に死去しているのが残念でなりません。
●読みやすさ ★★☆☆☆
作者はスウェーデンのジャーナリストだったので、ノンフィクションのようなドライで簡潔な表現が多く、読みやすい文ではあります。英語への翻訳はとても自然に感じます。
問題は、詳細が多くてどの情報が重要でどの情報がそうではないのかわからないので全部ちゃんと読む必要があることでしょう。そのうえ長い本です。また、沢山登場するスウェーデン語やロシア語、ドイツ語の名前は、(少なくとも私には)覚えにくくて(あれこいつ誰だっけ?)と混乱します。すんなり速読できる本ではなく、そういう意味では読みにくいと思います。
●アダルト度 ★★★★☆
このThe Girl シリーズでは「女性を憎む男性の女性に対する暴力」が一貫した共通の敵として描かれています。
性的奴隷のヒューマントラフィッキングなども扱われていますので成人向けと言えるでしょう。
追伸:アダルト度が★4つなものでちょっとおびえさせてしまったようなので追加しますが、セックスシーンはロマンスブックなどよりずっとマイルドですからご心配なく、テーマとバイオレンスの点で★を追加させていただいただけです。
●この作品の前編
The Girl With The Dragon Tattoo
●この作品の続編
The Girl Who Kicked the Hornests' Nest
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