Kate Morton
Atria
2009年4月7日(米国)
文芸小説/歴史小説/ミステリー
1913年、幼い少女が英国からオーストラリアに向かう客船にひとり取り残される。小さなスーツケースのほかに何の身分証明も持たない少女はオーストラリア人夫婦にNellと名づけられ、成人するまですっかり過去を忘れ去っていた。
別の年代も出てくるが、1913年にNellを船に乗せたAuthoressと呼ばれる女性(名前は出てくるがここでは伏せる)、1975年に英国に渡ったNell、そして2005年現在のCassandraの3人のストーリーが主軸である。Authoressの書いたおとぎ話をまじえつつ時代をあちこちに飛びながら同時に進行するThe Forgotten Gardenは、Mortonの卓越した表現力により、登場人物たちがそれぞれ別の次元で同時に生きているような不思議な錯覚を与えてくれる。どの文化でもおとぎ話とは残酷なものだが、謎が明らかになるにつれ、さらにその残酷さを感じるだろう。
謎を解きたいのだが、読む体験があまりにも楽しくて読み終えるのがもったいなくなる。読んでいる途中はもちろん、読み終えてからも夢に出てくるほどのめりこませてくれる。
●ここが魅力!
この本がどれほど好きかをちゃんと説明するにはわが家にご招待してお茶ではなくモルトウイスキーあたりをかかえて一晩中お話しするしかない…というほど大好きな作品です。
読み始めてすぐに「私ごのみ!」とわかり鳥肌が立ってきました。
難しいのですが、私が好きな部分をいくつかあげてみます。
- 英国の古い屋敷とメイズガーデン(迷路庭園)に繋がる秘密の花園(庭園)!
これだけでもう私はぞっこんこの本に恋してしまいました。
- 私が旅したことのある英国南西部のCornwallが舞台。
崖やCoveのある海岸風景が目に浮かんできました。
- 28年前に私が初めて英国を訪問したときに滞在し、うろついた場所(Kings Road, Kensington, Victoria & Albert Museum)が出てくる。
- 作中のおとぎ話が物語とうまく結びついている。
- わかったと思ったところで覆される謎。
- 5世代(そのうち1世代は物語に無関係)にわたる女性の歴史が見事に平行して語られ、最後にひとつになる。作者のこの腕前には脱帽!
私が洋書(または海外文学)を好きな理由のひとつに、「長編が実際に長編である」ということがあります。「奇妙なことを言う奴だ」と思われるかもしれませんが、日本では(村上春樹氏などの売れっ子作家をのぞき)本を一冊にまとめるために長編を短くすることが要求されます。そのために、商業的な小説ではプロット中心で詳細がおろそかになり、詳細が重視される純文学ではプロットが単純になりがちです。ながーい長編を許される洋書の場合、このthe Forgotten Gardenのように複雑なプロットと詳細のどちらも楽しめる「商業的な文芸小説」の存在が可能になります。the Forgotten Gardenは、「長くてよかった」と実感した作品でした。
●読みやすさ ★★☆☆☆
560ページでけっこう長編です。けっして難解な文章ではありませんが、英語に慣れている必要があります。クラシックな作品に慣れている方にとっては読みやすく思えるでしょう。
●この本が気に入った方にはこんな本も…
1. The House at the Riverton (Kate Mortonの処女作)
2. The Thirteenth Tale
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