David Wroblewski
2008年6月
現代文学/スリラー
オプラのブッククラブについては以前にもお話ししましたので繰り返しませんが、これはもっとも最近のオプラのチョイスで、長期にわたってニューヨークタイムズ紙ベストセラーを続けていました。意固地に避けてきたのですが、13年ぶりに図書館のカードを更新して振り向いたところ目に入ったのがこの本。「これも運命か」と思って借りてきました。
Edgar Sawtelleの祖父はウィスコンシンの田舎で独自の信念に基づいて犬を選択し、人間への思いやり深さで知られるSawtelle犬という血統を作り上げた。Edgarは聴覚は正常なのに言葉を発することができず、手話で両親や犬に意思を伝えるようになった。家業を継いだ父とトレーニング担当の母に愛されて平和に暮らしてきたが、父の弟Claudeが帰省してから突然静かな平和が崩壊し始める。父が急死し、精神的にも肉体的にも脆弱になった2人の生活にClaudeが入り込む。
EdgarはClaudeが父の死に関わっていることを疑うが、それを暴露するための計画が失敗して悲劇を生み、自分に忠誠なSawtelle犬3匹とともに逃亡者になる。これ以上詳細を説明するとネタばれになるのでやめるが、70年代のアメリカを舞台にしているにもかかわらず、ロシアの文豪の作品やハムレットを連想させる本である。時折非常に優れた箇所があり、心を奪われるようなディテールもある。特にハチ公に関わる謎など、作者が長年かけてSawtelle犬や物語の想定をしたことがうかがわれる。この架空の血統犬にこめた作者の思い入れは感慨深い。
文章表現などすばらしい部分が多いにもかかわらず賞賛できない理由のひとつは、登場人物に深さがなく魅力を感じないことだ。犬の性格描写のほうが優れていて感情移入しやすい。だが、もっと深刻な問題は、結末を含めて数々の出来事の必然性を納得させてもらえなかったことである。超大作になる要素が揃っているのに、感動よりもフラストレーションがたまった作品である。
追記(4/15)
読み直して感じたのは、題名はThe Story of Edgar Sawtelleだが、実はEdgarではなくSawtelle犬の話であり、人ではなく犬の話だということである。犬の話だと思って読んでみると、フラストレーションが減り、偉大な本だという印象が強くなる。それでもやはり、興味深いSawtelle犬の謎に集中してストーリーを引き締めるべきだったと思う。
●この作品の魅力
犬についてはどのディテールも面白く、これだけならどんなに長くてもかまわなかったと思います。ただし、興味深い逸話があるのでそれが将来何かの意味を持つのだろうと思っていたら何度も肩すかしをくらわせられたのは残念な点でした。
私は中学から高校にかけて「罪と罰」や「ファウスト」などのクラシックを毎晩宿題もせずに読み、翌日には白昼夢でその内容のことばかり考えていました。そのころに読んでいたらThe Story of Edgar Sawtelleに大感動して、会う人全員に「読め」と勧めたと思います。
ドストエフスキーやシェークスピア、カミュ、カフカ、などが好きな方にはおすすめしますが、それ以外の方は「時間の無駄をしてしまった」と後悔する可能性があります。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
何ページも割く必要がない逸話に何度も付き合わされ、それに混するか退屈する可能性があります。卓越した表現も、英語になれない方にはかえって難しいでしょう。また、長い作品です。多くの知人のアメリカ人が中途で読むのをやめています。
●アダルト度 ★★☆☆☆
子供には理解しにくい本ですが、読ませて特に困る部分はないと思います。
コメント
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