著者:Stieg Larsson
2008年9月初刊
スリラー/ミステリー
すべてがパッケージになったエキサイティングなミステリー
スウェーデンビジネス界の大物のスキャンダル記事を書き名誉毀損罪で実刑判決を受けたジャーナリストのBlomkvistは、パートナーと発行しているビジネス雑誌の経営危機に直面する。雑誌を守るために一時的に第一線を退いたBlomkvistは、自分を訴えた男の敵であるビジネス界重鎮から何十年も前の姪の失跡の謎を解明するように依頼される。
Blomkvistが偶然にパートナーを組むことになったのは、体中にピアスをしドラゴンの刺青がある天才ハッカーのSalanderだ。小柄で少女にしかみえないSalanderは、アスペルガー症で精神的なトラウマを抱えているので他人を信用しないし寄せ付けない。けれども、しだいにBlomkvistにはなついてくる。
The Girl with the Dragon Tattooは、ひと癖もふた癖もある登場人物たち、複雑なプロット、スピーディーな展開、ダークな秘密、バイオレンス、そしてロマンスとすべてがパッケージになったスリラー/ミステリーである。ミステリーとしてはやや弱い部分もあるが、スウェーデン語の英訳ながらこれだけアメリカで人気が出たのは、パッケージとして優れているからだ。特にビジネスマンの男性ファンが多いのは、作者のLarssonが実際にビジネス分野でのジャーナリストだから思考回路が似ていることもあるかもしれないが、実は独立心がある魅力的な女性たちが放っておけないBloomkvistの受動的なプレイボーイぶりに感情移入しているからではないかと私は推察している。
The Girl with the Dragon Tattooといいながら、実際にはSalander ではなく、Blomkvist中心の物語である。
残念なことに作者のLarssonは2004年に死亡しているが、これに続く2作はすでに完成しているとのことだ(イギリスではすでに第2部が出版されており、日本ではそれを入手できる)。
追記:現在では全て出版されています。下記の本編の続編をご参考に。
●ここが魅力!
テクノスリラー、ビジネス・政治サスペンス、心理サスペンス、ミステリー、バイオレンス、と1冊にぎっしり中身が詰まっていることです。また、スウェーデンらしく登場人物の性格がアメリカ人の発想とは異なり、「そんなふうに考えるとは想像しなかった」という驚きがあるのも新鮮です。
娯楽作品ですが、ビジネスやハイテクの知識も満載されていて、そこがビジネスマンの男性に人気があるひとつの理由でしょう。もうひとつは上記で挙げたように、主人公の受動的なプレーボーイぶりです(村上春樹の主人公をちょっと連想させます)。
●読みやすさ ★★☆☆☆
スウェーデン語の英訳にしては英語がスムーズですが、スウェーデン語の人物名には悩みます。また、最初のうちの名誉毀損罪のあたりは緩慢な感じがしますが、それを超えるとだんだんスピードが出てきて、ページをめくる速度も上がってくるでしょう。
●アダルト度 ★★★★☆
性的虐待の犯罪がテーマになっていますので、セックスとバイオレンスの部分がけっこうあります。
●本作品の続編
The Girl Who Kicked the Hornets' Nest
●映画化
地元スウェーデンでは映画化されており、フランスなどでは公開されているようです。下はそのトレイラーです。
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