著者:Jonah Lehrer
発売日:2009年2月9日
ノンフィクション/神経心理学/応用心理学
人の頭の中身ほど面白いものはない
私が昔大好きだったエルキュール・ポワロは、「灰色の脳細胞」が口癖の名探偵。得意技は心理分析による謎解きです。犯罪に限らず、人の心理が政治、経済、医学、などすべてにもっとも大きな影響を与えます。人間は他の動物にくらべて進化しているのだから合理的な動物かというと、そうでもないようです。どう考えても合理的とは思えない行動が何度も歴史を変えてきたのは周知の事実です。
いったいなぜ人はそのような決断を下すのでしょうか?
他人の意思決定の理由も謎ですが、自分の意思決定も謎です。あまり考えずに決めたことのほうがじっくり考えたものよりも良い結果をもたらすこともありますが、決断を早まったために後悔することもあります。私の場合、株式にかけては必ずといってよいほど間違った決断を下すのですが、「これは売れる本だ」という予感はほぼ当たります。どちらも同程度に限られた情報に基づくものですが、これほど判断力に差があるのはなぜなのか、自分でもよくわかりません。できればそれらの判断を下しているときの自分の頭の中を覗き見したいものです。
このように、人の下す判断とその背後にある脳の働きほど不可思議で面白いものはありません。
Jonah Lehrer のHow We Decideは、emotional brain(感情を司る脳の部位とそれによる決断)と rational brain(合理性を司る脳の部位とそれによる決断)のバランスの重要性を説いています。第一印象の直感的な理解力の重要性を説いたマルコム・グラッドウェルのBlinkとよく比較されるのは、テーマが似ているだけでなく、紹介する逸話や実験の選択も類似しているからです。読者を引き込む面白いエピソードや実験で決して飽きさせないところも共通点です。
もっとも大きな差は、グラッドウェルがジャーナリストであるのに対し、レーラーがノーベル賞受賞の神経学者のラボに勤務したことがある神経学者だということでしょう(彼のサイトを見ると、その若さに驚きます)。疾患のせいで感情を失い完全に合理的になった患者がかえって決断力を完全に失ってしまうというエピソードなど、神経学者だからこそ着眼し解説できる逸話がレーラーの強みです。
Blinkでグラッドウェルが使った「thin-slicing」の説明に物足りなさを感じた者としては、脳のメカニズムを説明し、「いかに判断を下すべきか」というところまで言及しているHow We Decideのほうに読み応えを感じました。
語りの達者さではグラッドウェルのBlink、内容の濃さではHow We Decide、というのが私の感想ですが、どちらも面白いので読み比べてみるのもよいでしょう。
●ここが魅力!
興味深いエピソードと実験の数々。そして、科学的にそれらの現象を解説してくれることです。科学に縁のない人でも十分「わかった」という気にさせてくれます。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文体そのものは簡潔で読みやすいのですが、専門外の方には専門用語が難しく感じるかもしれません。
●アダルト度 ☆☆☆☆☆
内容を難しく感じない子であれば、小学校の高学年から(全部を理解するのは無理にしても)トライすることはできるでしょう。面白く思うのはたぶん高校生くらいからです。
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