著者:Ramit Sethi
ジャンル:実用書/ハウツー/自己啓発
キーワード:パーソナルファイナンス、貯蓄、リッチ
洋書ニュースにも書きましたが、1日に限りオンラインで購入した読者に抽選で1時間に1台Kindle(と計5000ドルの賞金)をプレゼントするという斬新なマーケティングで、Amazon.comの書籍とKindle版で1位に躍り出た注目の新刊です。David Meerman Scott(ディヴィッド・ミーアマン・スコット)が説くBuyer Personas(顧客ペルソナ)を熟知したマーケティングの好例です(情報公開:スコットは私の夫)。
「やせるためには食べる量を減らして運動量を増やす」のが実際には最も有効な方法なのに、人は最新のダイエットに挑戦しては失敗します。パーソナルファイナンスも同様で、金持ちになるのには株の売買などというギミックよりも、無駄な消費を抑えることや、将来を見据えた(株の投資も含めた)賢い長期的な投資と貯蓄が肝心です。
(この後は、2014年1月2日に加筆)
ニューヨーク近郊のビジネスマン家庭で育った夫のスコットは13歳のときから近所の芝刈りのアルバイトをやって金融ポートフォリオをスタートしたというパーソナル・ファイナンスのベテランです。貯めるだけではなく、それを元に長期投資し、それを使って大学卒業後は友人とヨーロッパをバックパックで旅行し、バブル期の日本で仕事をしたときの資金を浪費せずに29歳でナンタケット島に家を購入したのでした。当時経済が停滞して不動産価格が徹底的に下がっていたので私たち若い夫婦にも買えた小さな家は、20年後の現在4倍以上になっています。娘が生まれたときには、彼女の将来の大学資金のために税金控除がある貯蓄も開始しました。そして、香港から「無職」の状況でアメリカに移住したときには、徹底的に消費を抑えることもしました。
日本の田舎育ちで「節約と貯金」という単純なやり方しか知らなかった私には考えもつかない対策の数々でした。このようにパーソナル・ファイナンスにたけた夫のおかげで、私たちは娘が1年に6万ドル(約6百万円)もかかる大学に入学したときに焦らずにすんだのです。
こういったパーソナル・ファイナンスに関する「常識」を、著者のRamit Sethiはブログで鍛えた若者向けの知的でユーモアある語り口で説きます。大学資金を調達するために自己学習し体験したパーソナルファイナンスの知恵を数年間ブログで紹介してきただけあり、みごとに隙がない内容です。
洋書ニュースで「日本人にとっては無意味」と書いた理由は、Sethiが教えるテクニックの多くがアメリカ独自のシステムに関連したものだからです。将来家などを購入するときに重要なクレジット・スコア、リタイアメントのための貯蓄401K、授業料のStudent loanの仕組みなどは、(アメリカ人にとっては非常に重要な情報ですが)日本のシステムとは異なるので、それをそのまま利用することができないのは残念です。
クレジットカードで購入した品物で金利として払う金額がどれほどか、という情報(脅し)は日本人にも役立つでしょうが、そういった詳細よりも、「パーソナル・ファイナンス」のコンセプトを考えさせる部分が素晴らしい本なのです。
例えば、著者Sethiの次のようなメッセージです。
「Why Do You Want To Be Rich?」の部分で、Sethiは、今の自分が「金持ち」だと思う理由を下記のように挙げています。(親思いなところが、さすがにインド人です)
- Make career decisions because I want, not because of money(収入ではなく、自分がやりたいかどうかでキャリアに関する決定をできる)
- Help my parents with their retirement, so they don’t have to work if they don’t want to(両親が働きたくなったときに引退できるよう援助できる)
- Spend extravagantly on the things I love and be relentlessly frugal about the things I Don't. (自分が使いたいことには贅沢にお金を費やすが、さほど需要ではないものに関しては徹底的に倹約する)
- Start a scholarship fund for young entrepreneurs(若者の起業家への奨学資金を開始した)
私が特に共感をおぼえたのは、著者が「お金のためではなく、やりたい職業を選択できる」状況を金持ちと考えているところです。これは、「幸福とは何か?」という問いかけと似ているような気がします。
大学生にプレゼントしたい本です。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文章は簡単ですが、アメリカに住んでいない人には金融の専門用語が理解しにくいと思います。
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