David Small
336ページ(ハードカバー)
W W Norton & Co Inc
2009/9/8
グラフィックノベル/回想記
「グラフィックノベル」は、日本の漫画に似ていて異なる。どう異なるかを言葉で説明してもよくわからないであろうから、そこは読んでいただくしかない。
このグラフィックノベル「Stitches」は、ベテランイラストレーターの
David Smallの回想録であり、グラフィックノベルの中でも特殊な作品である。
David Smallの幼年時代は、暗い沈黙に満ちていた。母の無言の怒りは家族全員を緊張に満ちた沈黙に引きずりこみ、それぞれが押さえ込んだ怒りを別の「音」で発散していた。放射線専門医だった父親は、病弱だったDavidに放射線照射を繰り返し、結果的に頸部の癌を与えてしまう。だが、両親は彼から事実を知る権利を奪い、本人に何も告げずに手術をし、声帯を半分除去してしまう。手術から目覚めたDavidは、自らの選択ではなく「沈黙」を強いられてしまう。
愛を与えられず、栄養を与えられず、好奇心は否定され、そして言葉を奪われたDavidがそこから抜け出した経緯を示す最後の夢のエピソードが印象的だ。
絵本のイラストレーターとして数々の賞を受賞しているDavid Smallのこれまでの作品からは想像できないほど、暗くて辛い回想録である。文章での説明は最小限だが、それゆえ少年の視点からの大人の世界の不気味さや不条理さがひしひしと伝わる。
●ここが魅力!
言葉での説明がほとんどないにもかかわらず、少年だったDavidが覚えた孤独、怒り、恐れが胸にずしん、ときます。「声を出せない」という肉体的な制約がDavidの生い立ちすべてを象徴していて、彼がイラストという言葉を見つけるまでの絶望に思わず涙ぐんでしまいました。
グラフィックノベルですが、ベストセラーになったAugusten Burroughsの Running with Scissors
と同様の読後感を得ました。
Amazon.comの2009年9月Best of the Month
●読みやすさ ★★★★☆文章での説明はあまりありません。分からない文章があっても、イラストがあるので意味が想像できるでしょう。
●アダルト度 ★☆☆☆☆親から愛されなかった子供の悲痛な回想記ですから、児童向けではありません。
●David Smallの作品
The Underneath
The Gardener
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