2011年11月4日から3日間、フロリダ州ケープ・カナベラルにあるラディソンホテルで宇宙飛行士奨学金基金(Astronaut Scholarship Foundation, ASF)が主宰する恒例の資金集めのAstronaut Autograph & Memorabilia Showが開催されました。
コレクターとして宇宙飛行士と交流するようになった夫は、数年前からこのイベントを応援していますが、私が参加するのは今回が初めてです。主目的は、現在執筆中の本の取材です。絵を注文して描いていただいたアラン・ビーンさんとは、絵のテーマを語りあって決めたり、エピソードを書く過程で親しくなり、自宅を訪問させていただき、夕食をとりながら特別に取材させていただきました(私たち夫婦が描いていただいた月面風景のアクリル画)。その他の方々を取材する予定はなかったのですが、気軽に語りあえるこのイベントで他の方々ともお会いしてみようと思いついたのです。
もうひとつの重要な理由は、特別な体験をした人々と語り合う機会を永久に逃したくなかったからです。
マーキュリー計画がスタートしたのは1959年で、「マーキュリー・セブン」のなかで現在生存しているのはカーペンター(86歳)とジョン・グレン(90歳) の2人だけになってしまいました。生存しているアポロ宇宙飛行士も、すでに80歳前後の高齢になっています。月に降り立った人々と語り合える時間は、もう 残り少なくなっているのです。カクテルパーティで、イギリスのマンチェスターから飛んで来た物理学の教授に会いましたが、彼は、 「月に降り立つ」という人類の素晴らしい達成の記憶がじきに消えてしまうことに気付き、パニックに陥り、大慌てでやってきたそうです。
このイベントの目玉は「コレクターアイテム」と「宇宙飛行士のサイン会」なのですが、「プラチナ・プラス」という少数限定のVIPチケットを購入すると、さらに特別な体験が得られます。その年によって内容は異なるのですが、今年のVIP特別イベントをざっとご案内しましょう。
初日は、ケープ・カナベラル空軍ステーションの一般公開されていない場所を、マーキュリー・アトラス7号宇宙飛行士スコット・カーペンターとアポロ12号宇宙飛行士ディック・ゴードンの2人の案内で見学します(右は、アポロ1号の打ち上げサイトを中から見上げたところ)。
次にスペースシャトル宇宙飛行士のフレッド・グレゴリー、ハンク・ハーツフィールド、リック・ハウク、ジャック・ルースマ、キャシー・ソーントンのパネルディスカッションを聴きながらの昼食です。真面目なテーマがいつしかトイレの話になって大笑い。
午後からはアポロ12号宇宙飛行士で画家になったアラン・ビーンさんの講演です。
夕方のカクテルパーティのときに雪嵐のせいでわが家がまる4日以上停電だったことを話すと、即座に「冷蔵庫の中のものが全部ダメになってしまったでしょう。そりゃあ、大変だ」という同情に満ちた反応が戻ってきました。マッチョで知られるアポロ宇宙飛行士のなかで、冷蔵庫の中身のことを考えるのはビーンさんくらいです。
夜のカクテルパーティでは、自由に声をかけて語り合うことができます。
エド・ミッチェルさんには、Noetic Scienceとエイリアンについてお話をお伺いしました。「宇宙の広大さを考えると、エイリアンがいないと信じるほうが非合理的」という点では意見が一致しましたが、「地球にも到着している証拠は沢山ある」という説になると、やはり少々疑問を感じざるを得ない私でした。でも、証拠を見せていただけたら気が変わるかも...。
アポロ13号の船長ジム・ロヴェル(日本語表記はラヴェルのようですが、発音はロヴェルのほうが近いです)さんとは13号のことは話さず、ジェミニでの体験についてお聞きしました。ジェミニを離れてからバズ・オルドリンとは一言も交わしていないという逸話は、冗談まじりでしたが、本気のようでした。
アポロ13号のフレッド・ヘイズさんは、とても好感が抱ける方です。生まれ故郷のミシシッピ州に「INFINITY Science Center」という科学センターを設立するために奔走していることを、目を輝かせて語ってくださいました。
そして、アポロ15号の船長と、宇宙飛行士や基金のディレクターから「飛行士じゃないほうの...」と呼ばれている夫との「デイヴィッド・スコット」サンドイッチです。スコットさんとは夕食のテーブルでご一緒しました。
月に降りた最後の人間ジーン・サーナン、15号のアル・ウォーデンのお二人も刺激的でした。サーナンさんは、映画のキャラクターにぴったりの豪快な性格です。写真はまた後ほどアップします。
学びは多かったのですが、最も印象的だったのは、彼らの頭脳のシャープさです。とても80歳前後の年齢とは思えません。元々心身ともに厳しい訓練を乗り越えた方々ですが、それだけではないと思うのです。ウォーデンさんはグーグル本社で講演を終えてから直接このイベントにかけつけ、サーナンさんはカナダ出張からの帰宅途中です。ビーンさんは毎日6時間絵を描く生活を続けていますし、ヘイズさんは科学センター設立の計画に忙しい毎日です。そして、デュークさんはチャリティの数々に関わっておられます。
みんな「現役」なのです。
「月着陸」の貴重な歴史を次世代に遺すために40年前のことは語りますが、それに加えて、「今」と「これから」のことを語りたがる彼らに感服しました。彼らの目が輝いていて、背筋がすっとのびているのは、ずっと「現役」を続けているからなのですね。
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