震災直後に日本のニュースのUstreamを観ているとき、右に現れるツイート(私がフォローしている方々ではありませんので、お間違いなく)を読んで悲しくなりました。
それをブログを書いたのですが、その後1週間の変化はめまぐるしいものでした。
遠く離れたボストン近郊に住んでいても、毎日ニュースやソーシャルメディアから離れることができず、何もできない罪悪感に苦しみ、落ち込んだりしていました。
今、こんなことを考えています。
***
「昔は良かった」と言う人は、全世界に存在します。
「昔の人のほうが親切だった」「昔のほうが空気がきれいだった」といったものです。
けれども、歴史を振り返ってみると、全体的には今のほうが昔よりも良くなっていることのほうが多いのです。
100年前にはアメリカ合衆国でも女性には投票権がありませんでした。でも今は、法律上男女同権です。奴隷制度もなくなり、黒人ハーフのバラック・オバマ大統領が誕生しています。
日本でも昔は、貧しい村で親が子どもを売っていました。けれども、今では子どもや女性に人権があるのは当然のことになっています。
公害が多かった時代よりも、今のほうが水も空気もきれいになっています。
「今の時代に生きていてよかった」というのが私の実感です。
人類は、ときには戦争や環境破壊のような新しい問題も生み出しますが、それを乗り越え、もっとよい世界を作る努力もします。日本も、第二次世界大戦後に「戦前の日本の軍国主義には戻りたくない」と思った人びとが想像を超える努力をして世界で第二位の経済大国に成長しました。けれども、その途中で公害を生み出し、学生運動を体験し、そのたびに「新しい世代」が前の世代のミスを直してゆきました。
近年、海外から見て日本のムードは落ち込み気味だったような気がします。経済力だけでなく、精神的に「これからどこに行くべきなのか?」という迷いや「どこにも行けない」という閉塞感があったような気がします。
そこにこの悲惨な震災と原子力発電所の事故です。
「日本はもうダメだ」という悲観的な声は当然国内外から聞こえてきました。
でも、この数日間、関東だけでなく東北地方に住む方々から届くのは、原子力発電所で命がけで作業にあたる方々への感謝、「自衛隊がんばれ」「消防隊がんばれ」という応援、政府や東電を罵倒する人びとへの「今はそんなときじゃない」というたしなめの言葉、寄付やボランティアをしたいという助け合いの心、そして、「日本を復興させよう」という素晴らしい声です。そして、力強いエネルギー。
2001年9月にアメリカ合衆国で起こった同時テロ(9/11)直後にも、国民が団結し、強いエネルギーが生まれました。けれども、残念だったのは、アメリカがそのエネルギーを間違った方向(2つの戦争)に使ってしまったことです。
今日本で生まれている新しいエネルギーは、そのときとは違います。元々日本人が持っている優れた特性(努力、助け合い精神、など)を引き出しつつ、新たに別の特性も生み出しました。
新しい特性は、ソーシャルネットワークでみられた「民主主義の成熟」です。
そう思った理由は3つです。
1)ツイッターなどを介したソーシャルメディアで「流言」や恐怖心をわざと煽る情報が広まったが、ソーシャルネットワーク内で心ある人びとが「根拠がある冷静な情報」に置き換え、それが結果的に定着したこと。
2)政府や東電への批判はあるものの、現時点では中傷や非難は避けて、苦難を乗り切ることに専念してもらおうという考え方。厳しい目で監視する必要と、口汚く中傷することの差をわきまえる環境が生まれた。
3)自分の発言の重さを自覚し、罵倒などで一時的に気晴らしするためではなく、他の人や社会に役立てるためのツールとして意識的に使う人が増えた。また、それらの人びとに賛同する人が増えて行った。
ツイッターが日本で流行る前から観察してきましたが、ソーシャルネットワークによって民主主義がここまで成熟するとは想像もしていませんでした。これには深く感動しました。
これまで何か大きな事件が起きたときのパターンは、次のようなものでした。
「事故や問題が起きる。」→「それを知ったマスコミと世論が嵐のようにバッシング」→「責任者か担当者が追いつめられて辞職するか自殺する」→「根本的な改善にとりかかることなく、時間がたつと忘れる」
政府、企業、学校などが、非難されるようなことを陰でして隠していることはあるでしょう。そのために透明性が求められますし、監視する機関も必要です。けれども、最善の対策をしていたにも関わらず事故が起きることはあります。 辞職か自殺をした責任者や担当者の中には、責任感があり、仕事熱心だった方も多いと思うのです。けれども、何か事件が起こると、誰もが画一的に心がボロボロになるまで叩かれてしまうのです。こんな風潮があると、役所や企業の個人は、問題が起きないよう、「リスクをなるべく取らない」ようになりますし、問題が起きたら、マスコミが知る前になんとか処理してしまおうとします。
けれども、今のツイッターやフェイスブック、ブログの雰囲気は、これまでとは異なっているようです。
少なくとも私のTLでは、「がんばれ」→「一緒にがんばろう」というものが圧倒的なのです。
「こういうときに、強く導いてくれるヒーローが現れて欲しい」「カリスマがある指導者が欲しい」という意見も目にしましたが、私は「パターナリズム(父権主義)」はこの際捨てちゃったほうがよいと思うのです。
ヒーローになんとかしてもらおうとすると、透明性はなくなります。いちいち国民の了解なんかとっていたら、ヒーローは自分の思い通りに活躍できないからです。
歴史的にもカリスマ性がありすぎるヒーローはろくでもない人でしたしね...。
日本の現場には優れた人が沢山います。
今必要なのは、それらの人びとと一緒に働くことができ、個々の能力を活かせるリーダーでしょう。多少失敗しても、意見を聞いてくれて、改善しようと努力してくれるのであれば、共に苦難を乗り越える仲間として徹底して応援してあげるべきだと思うのです。
人はけっこう単純なものです。
自分を罵倒する人の意見には耳を傾けたくないし、そういう人のために働きたくないと感じます。ところが、「あなたをあてにしています。助けてください」と言われると、突然「がんばろう」と努力したくなってしまうのです。
これからきっと起こることは、将来のエネルギーをどうするのか?という深刻な話し合いでしょう。
原子力発電所の安全性だけでなく、それにとってかわる技術の利点と欠点、経済成長のために必要な電力をどう確保するのか、など国民を含めた透明な話し合いがきっと行われると期待しています。(ツイッターでフォローしている方のコメントを読んで追記:今後隠蔽が行われないよう、冷静、論理的、透明、継続的に検証していく環境を作るべきだと思います。そのためにも、国民が「当事者意識」を持って「参加」する「民主主義」が成熟する必要があると思うのです。)
もうひとつ私が予想する日本の未来は、フレックスな生き方が増えることです。
たとえば、妊娠出産後に育児をやりながら続けられる在宅やフレックスタイムです。節電にもなると思うのですが、これがあれば、少子化が改善するし、経済成長にも貢献できると思うからです。給料が多少減ってもまた戻って来れるのであれば、子育てと仕事をどちらもしたい男女はいると思います。
そして、辛いときに互いを追いつめるのではなく、互いに生きやすくなるような助け合いの環境が、きっと生まれるでしょう。
日本は、今までよりもずっと生きやすく、強い国として蘇ると思うのです。
がんばれ日本!
6/27日追記
現在、このプロジェクトを応援しています。
何かをしたい、と思っている方がいらしたら、ぜひ「ほぼ日」の「西條剛央さんの、すんごいアイディア。」をお読みいただき、「ふんばろう 東日本支援プロジェクト」のサイトをご訪問ください。
今日も由佳里さんの文章を読んで元気が出ました。ありがとうございます。
投稿情報: アリゾナ | 2011年3 月21日 (月) 23:13
渡辺さん、facebookで拝見しました。お説のように、日本のSNSの利用のされかたが震災を期に大きく変わったと思います。ただあと十日、二十日するとまた風潮が変わってしまうのではと怖れている面もあります。だからと言ってこの地震を通じて日本人の素晴らしさも多々感じています。。これから放射能の風評被害などでどれだけ冷静にコミュニケーションが図れるか日本の真価が問われます。
投稿情報: HiroyukiNagata | 2011年3 月21日 (月) 10:18
コメントの数々、ありがとうございます。
毎日追いかけられているような感じで、ひとつひとつにお返事できなくて申し訳ありません。
すべてのご意見を学びにしたいと思います。
これからもどうぞよろしく。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2011年3 月21日 (月) 07:19
元気付けられる!渡辺由佳里さんのブログ
投稿情報: TakaoMatsui15 | 2011年3 月21日 (月) 06:42
「日本の現場には優れた人が沢山います。今必要なのは、それらの人びとと一緒に働くことができ、個々の能力を活かせるリーダーでしょう。」という箇所に、特に強く共感しました。私の勤めている会社にも、工事現場で働く優れた技術者がたくさんおります。
これからは(も?)、「組織と共に成長していくリーダー」が求められるのでしょうね。
投稿情報: Tomoyuki | 2011年3 月20日 (日) 22:48
とてもとても共感しました。そして最後のメッセージには思わず涙。
ソーシャルネットワークで人々が冷静に対処しようとしたことは、私にとっても驚きでした。すごい力だと思うし、今は情報をオープンにしながら「一緒に」やっていこうとしていると思います。
たくさんの勇気をいただきました。現場でがんばっていきます!
投稿情報: Shiom_m | 2011年3 月20日 (日) 17:38