私は昨年の大統領選でオバマ大統領を支持し、勝利を心から祝った者のひとりです。
けれども、最近のオバマ・ホワイトハウスの動向には深く失望しています。
国民にとって、そして世界にとって、もっともプライオリティが高い問題を解決するために、政治的な駆け引きとしてプライオリティが低いもの (たとえば同性愛者の権利拡大)を対抗する勢力に明け渡すという政治的取引の必然性は理解できます。
けれども、就任後のオバマ大統領は、彼の約束を信じて闘って来た者たちよりも彼を失脚させることだけを目的にしている勢力に媚びているように思えてなりません。
それでも私は「彼が最も重視する医療制度改革を成し遂げるための政治的戦略であろう」と信じようとしてきましたが、上院案に関する一連の対応ですっかり失望しました。
米国の医療制度の抱える問題について私は1997年ごろから数年にわたり医学書院の「訪問介護と看護」でルポを連載してきました。その後もいろいろなところで言及したのですが、あまりにも長くなるのでここでは割愛させていただくとして、一言でまとめると米国の医療制度は崩壊寸前です。大幅な改革をしない限り、私たちの子供たちの世代がまともな医療を受けることは不可能です。
私の夫が企業を離れて独立したとき、幸いなことにマサチューセッツ州なので個人事業者が入ることのできるグループ保険に加入することができました。グループでは最もリスクが少ない(コンサルタント類)ために安いほうだというのですが、当時月額が650ドル(単純に1ドル=100円と計算すると、6万5千円)でした。それが毎年どんどん値上がりし、2010年は月額が1400ドル弱(14万円)になりました。10年間に倍以上の値上げです。
保険費の価格は収入には無関係です。つまり、月給が10万円しかない人でも月額は14万円ということです。たとえ高級とりだったとしても、職を失ってからこれだけの金額を毎月払うことは難しいでしょう。だから、米国の保険未加入者はどんどん増えているのです。
米国の現行の医療保険制度は、メディケア、メディケイド(高齢者、障害者、低所得者などを対象とした公的保険)をのぞき、企業が100%支配しています。Health Reform Watchによると、(わが家が以前加入していた)Aetna保険のCEO Ronald Williams の昨年の年収は $24,300,112(約24億円)です。このところ幸い大病をしていないわが家が支払う保険料の大部分は医師や看護師でなく、こういうところに行っているというわけです。
深刻な問題のひとつは、お金を儲けることが目的の企業では、高い検査や治療を与えないほうが得なので、治療拒否が生まれることです。担当医師が必要だと判断しても、医療の知識がまったくない保険会社が「その治療は必要ない」と拒否することがよくあります。病気の最中に保険会社と闘うことがどれほど身体に良くないか想像していただければおわかりでしょう。
もう一つの問題は、がんや糖尿病などの「preexisting condition(既存の疾病や障害)」があると、保険会社に加入を拒否されることです。また既存の疾病や障害(肥満もそれに入ることがある)があったことが判明すると、治療費の支払いを拒否することもできるのです。
ヒラリー・クリントンが失敗し、ハワード・ディーン(Howard Dean) が支持してきた医療制度は、基本的にカナダ、英国、日本、デンマークなどをお手本にしたユニバーサルヘルスケアシステムです。もちろん、現行のプライベート(企業)のシステムを取り除くことは不可能です。ですから企業のシステムを取り除くのではなく、現行のシステムに公的保険(public option)を導入することが提案されてきました。廉価で加入できるpublic optionを導入することで、企業に値下げを余儀なくさせるという案です。public optionには税金が充てられますから一時的に国民全体の負担は大きくなります。けれども、保険加入者が増えることと競争が生まれることで全体的な医療費は下がる、という考え方です。
多少の相違はあれ、オバマ大統領もこの案を押してきました。ですが共和党から(特に高所得者への税負担が大きくなる)public optionへの反対が強く、「国が生死を決める(death panel)」が含まれるといった奇妙な噂が故意に流され、実現すれば得をする低所得者までが「Tea party」といった過激な雰囲気のある反対運動を繰り広げています。こういったくだらない妨害しかできない現在の共和党は、国民のことをまったく考えない「なんでも反対党」に成り下がってしまったようで、残念でなりません。
2つの戦争と経済危機を引き継ぎ、このような物騒な雰囲気の中で政治改革を進めるのは不可能に近いことでしょう。ですからオバマ大統領の苦悩は想像できます。(就任後、瞬く間に歳を取ったと思います)。けれども、彼はそれを知っていて大統領になった筈です。大統領になった理由は、無益な戦争に終止符を打ち、国民のために医療制度を改革し、温暖化にストップをかけてグリーンビジネスを推進し、企業ではなく国民のための政治をするためではなかったのでしょうか?少なくとも彼を大統領にするために奔走した人々はそう信じています。
最近のオバマ大統領の「言葉」ではなく「行動」だけに注目すると、彼は自分の政治的理念を信じて応援した人々だけを無視しているように思えてなりません。
せっかく下院議長のナンシー・ペローシーが(薄められてしまったが妥協できる)法案の可決にこぎつけたのに、上院では、個人的な理由(コネチカット州には保険会社が多いため)で駄々をこねたコネチカット州選出のジョー・リーバマンの言いなりの案に折れてしまい、それに反対の意見を述べたハワード・ディーンをホワイトハウスが個人的に中傷するような反論をしています。
ハワード・ディーンをよく知らない人は、マスコミのせいで「変人」扱いしているようですが、それはまったくの誤解です。
コロンビア大学卒で医師のディーンは、共和党員として育ったものの民主党に移り、ヴァモント州知事として共和党員とともに数々の改革をなしとげました。その中には医療制度改革や全国にさきがけた同性愛者のシビルユニオン(結婚ではないが、それと同様の法的権利が得られる)などがあります。財政的には古い共和党の信念である「財政保守(fiscal conservative)」です。
ブログやmeetupでの草の根運動やネットを使った20ドルからの政治献金を始めたのもハワード・ディーンです。私は2002年の年末か2003年年始くらいからボストンのmeetupのメンバー(一桁)でした。戦争勃発前から「イラク戦争」には強く反対し、2004年の民主党大統領予備選では、それで他の有力候補から叩かれましたが、今振り返って彼がどれほど正しかったかを認めるメディアがいないのは残念でなりません。
また、民主党全国委員委員長として、これまで民主党が無視してきた南部の「red states(共和党が支配的な州)」にも働きかける「50 state strategy(50州戦略)」を打ち立て、その結果として民主党は議席を大幅に伸ばし、オバマ大統領はred statesでも勝利することができたのでした。当初、この「50州戦略」に反対してディーンと怒鳴り合いをしたのが、現在のオバマ大統領の首席補佐官ラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)でした。真相は分かりませんが、多くの人々の進言にもかかわらずディーンが厚生長官に選ばれなかったのは「エマニュエルがあのときのことを根に持っているからだ」という噂まで流れました。今回の医療保険改革でも、ディーンは「理想案を強行に押し続け、最後の最後にネゴシエーションをする」ことを提案してきましたが、エマニュエルは最初から共和党よりの軟弱プランを押してきました(これまでのいきさつについてはこんな意見も)。
その結果できあがった上院案は、通常の国民にとってはこれまでより税金がかかるだけで利益はほとんどなく、保険会社はさらに利益を得るというとんでもないものです。可決すれば、「可決した」ということが大統領の政治的勝利にはなりますが、彼を支持してきた人々の勝利ではありません。
民主党にとって苦しい状況と分かっていて「この案には賛成できない。否決して新たに始めるべき」とディーンが公言したのは、陰で直接ホワイトハウスに進言してきたのに無視されたための最後の手段なのです。それなのに、「閣僚になれなかったから、ビターなのだ」といったマスコミのコメント(たぶんエマニュエルあたりから来ている)が流れるのには憤慨です。
けれども、最近のオバマ・ホワイトハウスの動向には深く失望しています。
国民にとって、そして世界にとって、もっともプライオリティが高い問題を解決するために、政治的な駆け引きとしてプライオリティが低いもの (たとえば同性愛者の権利拡大)を対抗する勢力に明け渡すという政治的取引の必然性は理解できます。
けれども、就任後のオバマ大統領は、彼の約束を信じて闘って来た者たちよりも彼を失脚させることだけを目的にしている勢力に媚びているように思えてなりません。
それでも私は「彼が最も重視する医療制度改革を成し遂げるための政治的戦略であろう」と信じようとしてきましたが、上院案に関する一連の対応ですっかり失望しました。
米国の医療制度の抱える問題について私は1997年ごろから数年にわたり医学書院の「訪問介護と看護」でルポを連載してきました。その後もいろいろなところで言及したのですが、あまりにも長くなるのでここでは割愛させていただくとして、一言でまとめると米国の医療制度は崩壊寸前です。大幅な改革をしない限り、私たちの子供たちの世代がまともな医療を受けることは不可能です。
私の夫が企業を離れて独立したとき、幸いなことにマサチューセッツ州なので個人事業者が入ることのできるグループ保険に加入することができました。グループでは最もリスクが少ない(コンサルタント類)ために安いほうだというのですが、当時月額が650ドル(単純に1ドル=100円と計算すると、6万5千円)でした。それが毎年どんどん値上がりし、2010年は月額が1400ドル弱(14万円)になりました。10年間に倍以上の値上げです。
保険費の価格は収入には無関係です。つまり、月給が10万円しかない人でも月額は14万円ということです。たとえ高級とりだったとしても、職を失ってからこれだけの金額を毎月払うことは難しいでしょう。だから、米国の保険未加入者はどんどん増えているのです。
米国の現行の医療保険制度は、メディケア、メディケイド(高齢者、障害者、低所得者などを対象とした公的保険)をのぞき、企業が100%支配しています。Health Reform Watchによると、(わが家が以前加入していた)Aetna保険のCEO Ronald Williams の昨年の年収は $24,300,112(約24億円)です。このところ幸い大病をしていないわが家が支払う保険料の大部分は医師や看護師でなく、こういうところに行っているというわけです。
深刻な問題のひとつは、お金を儲けることが目的の企業では、高い検査や治療を与えないほうが得なので、治療拒否が生まれることです。担当医師が必要だと判断しても、医療の知識がまったくない保険会社が「その治療は必要ない」と拒否することがよくあります。病気の最中に保険会社と闘うことがどれほど身体に良くないか想像していただければおわかりでしょう。
もう一つの問題は、がんや糖尿病などの「preexisting condition(既存の疾病や障害)」があると、保険会社に加入を拒否されることです。また既存の疾病や障害(肥満もそれに入ることがある)があったことが判明すると、治療費の支払いを拒否することもできるのです。
ヒラリー・クリントンが失敗し、ハワード・ディーン(Howard Dean) が支持してきた医療制度は、基本的にカナダ、英国、日本、デンマークなどをお手本にしたユニバーサルヘルスケアシステムです。もちろん、現行のプライベート(企業)のシステムを取り除くことは不可能です。ですから企業のシステムを取り除くのではなく、現行のシステムに公的保険(public option)を導入することが提案されてきました。廉価で加入できるpublic optionを導入することで、企業に値下げを余儀なくさせるという案です。public optionには税金が充てられますから一時的に国民全体の負担は大きくなります。けれども、保険加入者が増えることと競争が生まれることで全体的な医療費は下がる、という考え方です。
多少の相違はあれ、オバマ大統領もこの案を押してきました。ですが共和党から(特に高所得者への税負担が大きくなる)public optionへの反対が強く、「国が生死を決める(death panel)」が含まれるといった奇妙な噂が故意に流され、実現すれば得をする低所得者までが「Tea party」といった過激な雰囲気のある反対運動を繰り広げています。こういったくだらない妨害しかできない現在の共和党は、国民のことをまったく考えない「なんでも反対党」に成り下がってしまったようで、残念でなりません。
2つの戦争と経済危機を引き継ぎ、このような物騒な雰囲気の中で政治改革を進めるのは不可能に近いことでしょう。ですからオバマ大統領の苦悩は想像できます。(就任後、瞬く間に歳を取ったと思います)。けれども、彼はそれを知っていて大統領になった筈です。大統領になった理由は、無益な戦争に終止符を打ち、国民のために医療制度を改革し、温暖化にストップをかけてグリーンビジネスを推進し、企業ではなく国民のための政治をするためではなかったのでしょうか?少なくとも彼を大統領にするために奔走した人々はそう信じています。
最近のオバマ大統領の「言葉」ではなく「行動」だけに注目すると、彼は自分の政治的理念を信じて応援した人々だけを無視しているように思えてなりません。
せっかく下院議長のナンシー・ペローシーが(薄められてしまったが妥協できる)法案の可決にこぎつけたのに、上院では、個人的な理由(コネチカット州には保険会社が多いため)で駄々をこねたコネチカット州選出のジョー・リーバマンの言いなりの案に折れてしまい、それに反対の意見を述べたハワード・ディーンをホワイトハウスが個人的に中傷するような反論をしています。
ハワード・ディーンをよく知らない人は、マスコミのせいで「変人」扱いしているようですが、それはまったくの誤解です。
コロンビア大学卒で医師のディーンは、共和党員として育ったものの民主党に移り、ヴァモント州知事として共和党員とともに数々の改革をなしとげました。その中には医療制度改革や全国にさきがけた同性愛者のシビルユニオン(結婚ではないが、それと同様の法的権利が得られる)などがあります。財政的には古い共和党の信念である「財政保守(fiscal conservative)」です。
ブログやmeetupでの草の根運動やネットを使った20ドルからの政治献金を始めたのもハワード・ディーンです。私は2002年の年末か2003年年始くらいからボストンのmeetupのメンバー(一桁)でした。戦争勃発前から「イラク戦争」には強く反対し、2004年の民主党大統領予備選では、それで他の有力候補から叩かれましたが、今振り返って彼がどれほど正しかったかを認めるメディアがいないのは残念でなりません。
また、民主党全国委員委員長として、これまで民主党が無視してきた南部の「red states(共和党が支配的な州)」にも働きかける「50 state strategy(50州戦略)」を打ち立て、その結果として民主党は議席を大幅に伸ばし、オバマ大統領はred statesでも勝利することができたのでした。当初、この「50州戦略」に反対してディーンと怒鳴り合いをしたのが、現在のオバマ大統領の首席補佐官ラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)でした。真相は分かりませんが、多くの人々の進言にもかかわらずディーンが厚生長官に選ばれなかったのは「エマニュエルがあのときのことを根に持っているからだ」という噂まで流れました。今回の医療保険改革でも、ディーンは「理想案を強行に押し続け、最後の最後にネゴシエーションをする」ことを提案してきましたが、エマニュエルは最初から共和党よりの軟弱プランを押してきました(これまでのいきさつについてはこんな意見も)。
その結果できあがった上院案は、通常の国民にとってはこれまでより税金がかかるだけで利益はほとんどなく、保険会社はさらに利益を得るというとんでもないものです。可決すれば、「可決した」ということが大統領の政治的勝利にはなりますが、彼を支持してきた人々の勝利ではありません。
民主党にとって苦しい状況と分かっていて「この案には賛成できない。否決して新たに始めるべき」とディーンが公言したのは、陰で直接ホワイトハウスに進言してきたのに無視されたための最後の手段なのです。それなのに、「閣僚になれなかったから、ビターなのだ」といったマスコミのコメント(たぶんエマニュエルあたりから来ている)が流れるのには憤慨です。
私がディーンが好きな理由のひとつは「忠誠心」です。私にとっての政治での忠誠心とは、「政治的勝利のために自分の理念を支えてくれた支持者を裏切らないこと」です。2002年から今まで彼の行動を追って来た者たちは、ディーンが自分の信念を頑固に貫くことを知っています。彼らは、ディーンがどれほど真摯にオバマの勝利のために闘ってきたことを知っていますから、今のホワイトハウスの対応には自分自身が裏切られたように感じているのです。ディーンは信念を貫くためには、政治的な「討ち死に」をためらわない潔さがあります。これはずっと変わりません。マスメディアはほとんど触れませんが、ディーンが応援するからオバマを応援してきた者たちが陰でどんどん脱落しています。
ディーンの反対に対する大統領上級顧問デービッド・アクセルロッド(David Axelrod)の「insane(正気ではない)」という反論Visit msnbc.com for breaking news, world news, and news about the economy
それに対するディーンの答え(みよ、この落ち着いた対応を!どこがinsaneなのか)。詳細を聴いていただければ、なぜ彼が反対しているのかご理解いただけるでしょう
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