生来のザル頭が最近いっそうひどくなり、読んだ片端から記憶が薄れます。短編集は特にそうで、ちょっと時がたつともはやうすボンヤリとした「感触」くらいしか記憶には残らないのですが、このデビュー短編集は、その際立った個性でもって私の記憶の霧のなかからくっきりと屹立しておるのであります。好き不好きはあると思いますが、文学好きの方なら、読んで損はない一冊かと。
人生のとあるところをさくっと切り取って、切断面からその人物や周囲の人間の人生の成り立ちを垣間見せる、じつに短編らしい短編が並んでいます。乾いた筆致で、的確に人物像を描き出すその描き方は、細やかというのではなくて、鋭く、ウェットなところのない独特の情感を醸し出しています。
中年男、小学生の男の子、老人、少女。登場する主人公の年齢や性別はさまざまですが、みななんらかの挫折感や屈託を抱えています。とはいえ、挫折感や屈託をまったく抱えていない人間のほうがむしろ稀なのですから、そういう意味では現代人の普遍を描いていると言えるかも。その普遍が、じつにまあヘンテコなのです。人間というのはまったくもってヘンテコな生き物であることよ、とつくづく思わせてくれる作品集。現代のアメリカを舞台にした話が並んだあげく、最後はなんとバイキングの物語。伝説をなぞったかのような淡々とした殺戮の描写に、な、なんでここにこんなもんがくるのっ、しかもこれが表題作? と訝しみながら読み進めていくと、最後に、おおっ、こうきたか、とうならされます。いずれも見事な出来で、とてもデビュー作品集とは思えません。
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