著者:Daniel Suarez
2009年1月発売
テクノスリラー/現代文学
私はローテクでコンピューターゲームにはまったく興味がない人なのですが、IT 技術やコンピューターゲーム、情報セキュリティを満載したテクノスリラーDaemonにはぞっこん惚れ込みました。作者のSuarezに「これは稀にしか生まれないモンスターだ!」というファンレターを出したほどです。ともかくものすごい才能を感じさせる本です。
コンピューターゲームの天才クリエーターで「サイバーストーム」というゲーム会社のCEOマシュー・ソボルが脳腫瘍で死去したことがオンラインニュースで伝わる。このニュースが引き金になり、ソボルが生前にプログラムしていたDaemon(注:IT用語辞典によると、UNIX系OSにおいて、バックグラウンドで動作するプログラムのこと)が動き出す。最初は2人の社員の死だったが、担当の刑事は徐々にこれが単純な殺人事件ではないことを悟り、頑固に通常の対応をして状況を悪化させてゆくFBIとは別に個人的に調査を進めてゆく。だが、彼自身も実はソボルが生前にプログラムしていた駒のひとつだったのだ。Daemonは大企業を操り始め、阻止しようとするFBI、CIA、NSA(National Security Agency)などの政府機関すら非力な存在になってくる。
Daemonには、担当刑事のピーター・セベックやフリーランスのコンピューター技術者のジョン・ロスなど重要な登場人物はいるがはっきりした主人公はない。主要人物の感情的な相互作用そのものがあまり重要ではない。この物語では、防衛機関や大企業でフリーランスのシステムコンサルタントをしてきた作者だからこそ描ける、テクノロジーのリアリスティックな破壊力が主人公である。オンラインゲームのファンであればそれに近いビジュアル感覚を得るかもしれない。ともかく、Daemon(と作者Suarez)の非情な攻撃には最初から最後まで休憩する暇がない。
ひとつだけ文句をつけるとしたら、エンディングのあいまいさであろう。
続編が期待される。
読者からは、「マイケル・クライトンの再来!」、「マイケル・クライトンより優れた才能!」という声が聞こえるが、私は少し「リング」を連想した。
●読みやすさ ★★☆☆☆
コンピューターの技術系でオンラインゲームをやっている人であれば、きっと読みやすく感じるでしょうが、技術に疎く、ゲームをしない私のような人には難しい単語が出ています。
それと、登場人物が多く、しかもそれぞれの名前が懲りすぎで覚えにくいのも困ったところです。たぶん現実を反映しているだけなのでしょうが。
●ここが魅力!
この本は、実は2年ほど前に別名で自費出版され、それがネットで人気になり大手出版社からの出版が決まったものです。読者の熱意が出版社を動かしたところからも、この作品に魅力があることは確かです。
まずの魅力は題材の斬新さです。それから、リアリティある大惨事を描ける深い知識と腕前です。まるで映画のように映像が浮かんできます。ふだんこの手の小説にはあまり引き寄せられない私でも途中で本を置くことができずに深夜まで読み続けたくらいです。
でも「感動」を求める本ではありません。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
バイオレンスのシーンは沢山ありますが、ゲームの世界ってこんなものなのかもしれませんね。
この本の邦訳は講談社から出版されるとのことです(著者からの情報により2月9日追記)。
追記:Daemonの続編Freedomが発売されました。書評はこちらです。
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