著者:Hermione Eyre
ハードカバー: 448ページ
出版社: Jonathan Cape (UK) 、Hogarth(US)
ISBN-10: 0224097598
発売日: 2014/3/13(UK)、2015/4/14 (US)
適正年齢:PG15
難易度:超上級(英語ネイティブにも難解)
ジャンル:歴史小説(17世紀英国)/文芸小説(マジックリアリズム)
キーワード:Venetia Stanley、Sir Kenelm Digby、Anthony Van Dyck、alchemist、老化、アンチエイジング、美容
17世紀英国、チャールズ一世の時代。
Venetia Stanley(ベネチア・スタンリー)は、ベン・ジョンソンが詩を捧げ、ヴァン・ダイクが絵を描いた有名な美女だった。だが、結婚して子供を産み、30代なかばになったVenetiaは自らの美の衰えを自覚し、老化を恐れるようになっていた。
外交官、軍人、冒険家、哲学者、科学者として活躍する夫のSir Kenelm Digbyは、Venetiaより何歳も年下だ。自分が美を失い、愛も失うことを恐れたVenetiaは、化学の才能がある夫にアンチエイジングの薬を作ってくれるように懇願する。けれども、アンチエイジングの薬の恐ろしさを知るDigbyはそれを断り、害のない別の方法だけを教える。
夫が助けてくれないことに失望したVenetiaは、美を取り戻すための危険な薬「Viper Wine」を秘密裏に入手するようになる......。
1633年のある朝、夫のKenelmは妻がベッドの中で死んでいるのを発見する。愛する妻の突然の死を嘆いたKenelmはこれまでにも妻の肖像画を描いてきたVan Dykeに死の床の肖像画を依頼する。それが有名な左の絵だ。
Venetiaの突然の死は、当時夫であるSir Digbyへの疑惑を招いたが、結局不明のままである。その謎をアンチエイジングの「Viper Wine」に絡めたこの小説にとても興味を抱いて読んだのだが、この小説はそういう読み方をするタイプのものではないことに途中で気づいた。
Venetiaの心理や、突然死に至るまでの経過についてのストーリーはあるのだが、その途中にSir Kenelm Digbyが未来からの声を「受信」するマジックリアリズムが入ってきて、突然別の場所に連れて行かれてしまうのだ。
歴史、文学、そしてポップカルチャーといった広範囲にわたる知識を散りばめたプレイフルで(読む人によっては)ユーモラスな文芸作品だが、私の場合、そのクレバーなプレイフルさがだんだん鼻に付いてきた。突然アンディ・ウォーホルが出てくるよりも、17世紀の人間像だけに絞っていただけたほうが、ずっと楽しめるのではないか。そういう意味で「娯楽として読む作品」としては私には向いていなかった。
イギリスでは一昨年に刊行されて文芸評論家からの評価は概ね高く、アメリカでは今年の5月に刊行される(私が読んだのは、アメリカ版のARC)。
アメリカ的なストレートな小説ばかりではなく、イギリス的な凝った文芸小説に挑戦するのもたまには良いことだとは思う。しかし、娯楽でなく努力して読むのであれば、「読む前と後で、世界の見方が少し変わった」と思わせてくれる作品であってほしいのだ。
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