著者:Jo Walton
ペーパーバック: 304 ページ
出版社: Tor Books
出版日:2012年1月
ISBN-10: 0765331721
適正年齢:PG13 (中学校高学年以上。性の話題あり。)
難易度:中級〜上級(主人公Moriの日記形式なので読みやすいが、難しい表現もある)
ジャンル:ファンタジー/青春小説
キーワード:SF、図書館、ブッククラブ、魔法、妖精、擬似回想録
賞:ヒューゴ賞受賞作/『ジャンル別 洋書ベスト500』収納作品
(なぜか日本のアマゾンでは紙媒体が買えないようなので、紙媒体をご希望の方は洋書を取り扱っている書店リストをどうぞ)
ウェールズで生まれ育ったMorwenna(Mori)は、邪悪な母の魔法のために14歳のときに一卵性双生児の妹(姉?)を亡くし、片足が不自由になる。母から逃れるために15歳で家出をしたMoriは、赤ん坊のときから会ったことのない父親の家族の意向で、イギリスにある寄宿制女子校に通うことになる。
双子の片割れを失った悲しみや、母の虐待、学校での露骨ないじめ、気弱で頼りにならない父、孤独......。そういった心の痛みを、Moriはすべて本を読むことで和らげる。Moriの日記形式の『Among Others』には、SF好きには懐かしくてたまらないSFやファンタジー小説の題名が次々と登場する。それらについて、SFブッククラブの参加者たちが討論しあうのも面白い。だが、この小説を楽しめるのはクラシックSF小説のファンだけではない。Moriが子どもの頃から親しんできたウェールズの妖精たちは、日本の森に住んでいる者たちとも似ていると思えてくる。著者もMoriのように杖をついているし、寄宿制私立学校にも通っていた。自伝的な要素はあるようだが、妖精の部分は「ケルトの妖精ではないものにしたかった」と全面的に創作を楽しんだことを語っている。また、普通の女の子の青春小説としても面白い。
邦訳版『図書室の魔法』も最近刊行されたので、原書で難しく感じる方はぜひそちらをお読みいただきたい。
今年5月末のBEAで著者のJo Waltonさんにお会いできたので、『ジャンル別 洋書ベスト500』に本作品を収めたことを伝えた。「日本の田舎出身の私でもノスタルジックで、いつまでも心に残る作品だった」と話すと、「そう言っていただけるのが、一番嬉しい。書いたときには『45歳のウェールズ出身の女性でないと共感出来ない』という人がいたけれど、それ以外の人にも共感してもらえると思っていたから」と笑顔で答えてくれた。
ジョー・ウォルトンさんはウェールズ出身(現在はカナダ在住)だが、作品はずっと米国の出版社(Tor)から刊行されている。数々の賞も米国で受賞しており、英国ではなく米国で成功していることについて「奇妙に感じない か?」と質問するガーディアン紙に、「米国のほうが女流SF作家やジャンル作品への偏見が少ない」といった内容の返答をしている。この日、私に「ほかの人にも共感してもらえると思っていた」と力説していたのは、ガーディアン紙のこのインタビュー記事のことではないかとちらりと思った。
この日にサインしていただいた次の新作を読むのが、楽しみである。
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