著者:David Meerman Scott & Richard Jurek
ハードカバー: 144ページ
出版社: The MIT Press(マサチューセッツ工科大学出版)
ISBN-10: 0262026961
発売日: 2014/2/14
適正年齢:G(特に年齢制限はない)
難易度:上級レベル(専門用語があるのでやや難しく感じるが、レトロな写真や資料が多いので、それだけでも楽しめる)
ジャンル:ノンフィクション/歴史書(宇宙計画)/ビジネス書(マーケティングとPR)
キーワード:アポロ計画、宇宙計画、マーケティング、PR(広報)、アポロコレクション
人類を初めて月に送った「アポロ計画」についてはこれまでにも多くの本が出版されているし、唯一着陸に失敗した「アポロ13号」についての映画も有名である。
だが、この背後には、一般の人々が知らない重要な歴史がある。
その詳細を初めてまとめたものが、本書『The Marketing the Moon』である。
アポロ計画を成功させるためには長期にわたる莫大な資金投入が必要であり、アメリカ合衆国政府は、それを正当化するために国民の全面的な支持を得なければならなかった。月にゆくための技術開発もさることながら、まず「アポロ計画を国民に売る」ことに成功しなければならなかったのだ。こうして始まったのが史上最大規模のマーケティングとPRのキャンペーンだったのである。
本書を企画したのは、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ 』の共著者デイヴィッド・ミーアマン・スコット(David Meerman Scott, 私の夫)で、Apollo Artifactsと いうブログサイトを持っているほどのアポロ計画オタク/蒐集家である。アポロ宇宙飛行士やNASAの関係者から当時の懐かしい思い出を聞かされるうちに、 「なぜ、こんなに重要な歴史を記録した本がないのか?」と驚き、「この歴史を埋もれさせてはならない」と本書の企画を思いついたのである。
スコットが共著者として声をかけたのは、彼同様に熱狂的なアポロ計画蒐集家でオンラインミュージアムを作っているInland Marketing & Communications, Inc.の社長リチャード・ジュレック(Richard Jurek)である。
スコットとジュレックの2人は、月面着陸したアポロ宇宙飛行士の過半数(既に亡くなっている人がいることを考えると、大多数といえる)、当時のNASAの広報担当者、ボーイング社やレイセオン社のPR担当者などから話を聞き、蒐集家としての交友関係を最大に活用して稀有な資料を本書に掲載することに成功したのである。その中には、NASAのPR戦略を劇的に 変えたと言われるNASA主任広報官Paul Haneyの公式回覧状に対してマーキュリー・セブンのひとりで後にアポロ14号で月に降り立ったAlan Shepardが手書きで反論の注釈を書き入れているものなどもある。当時のアポロ11号のプレスキットの写真などは、眺めるだけでも楽しい。
また、この本を特別にしたのが、書籍プロデューサーのスコット=マーティン・コソフォスキー(Stott- Martin Kosofsky)である。コソフォスキーは、ニューヨーク・タイムズ紙が“Ten Best Art Books of 2009”に選んだ『Asylum: Inside the Closed World of State Mental Hospitals』(MIT出版局)のプロデューサーであり、出版関係の国際的な賞も受賞している(最初にコソフォスキーの本をスコットに薦めたのは私で、彼の才能に感心した夫が、この企画を考えたときに声をかけて実現した)。
本書に前書きを寄せてくれているのは、人類として最後に月から離れた「アポロ17号」の船長ユージン・サーナン大佐である。スコットとジュレックが以前から懇意にしている方で、私も一緒に食事をしたことがあるが、会話が面白く、とても魅力的な人物だ。彼は、本書がアイディアだけだった頃から共著者2人を励ましてくれた。
他にも本書への推薦文を寄せてくれているのは、ボーイング社ブランド・広告部門副社長 フリッツ・ジョンストン、A Man on the Moon『人類、月に立つ』(日本放送出版協会)の著者アンドリュー・チェイキン、コロンビア大学アメリカ史教授 アラン・ブリンクリー、 スミソニアン航空宇宙博物館シニア・キュレーター ロジャー・ローニアス(宇宙飛行史学者)、カリフォルニア大学バークレー校 建築・都市計画准教授、Spacesuit: Fashioning Apolloの著者 ニコラス・ド・モンショーなどである。
アカデミー賞にノミネートされた有名なドキュメンタリー映画『ラジオ・ビキニ』の監督ロバート・ストーンが、刊行に先駆けて映画化のオプションを購入しており、日本での邦訳出版も決まっている。
夫の作品だからというだけではなく、今後何十年も残る作品だと誇りに思う書籍である。
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