著者:Sheryl Sandberg
ハードカバー: 240ページ
出版社: Knopf
発売日: 2013/3/11
指南書/回想録
これを読まずして年は越せないで賞2013年候補作(渡辺推薦)
Sheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)はFacebookの“女性”COOとして有名ですが、ビジネス界を超えて一般人にも注目されるようになったきっかけはTEDトーク"Why We Have Too Few Women Leaders"です。私も、このビデオを観て、彼女に興味を抱きました。
シェリルは、能力ある女性が職場でどんどん脱落してゆく現状を目の当たりにし、女性のリーダーが増えれば、女性が働きやすい環境が生まれ、もっと多くの女性が職場に残って成功する、と考えました。そして、考えているだけでなく、現状を変えるために発言してゆこうと決意したのでした。
本書「Lean In」は、そういう目的で書かれた指南書であり、回想録でもあります。
シェリルは、たとえば次のように非難を覚悟で男女差についてはっきりと語ります。
We hold ourselves back in ways both big and small, by lacking self-confidence, by not raising our hands, and by pulling back when we should be leaning in.
私たち女性は、自信に欠けていたり、手を挙げなかったり、積極的に関わらねばならないときに身を引いたりして、重要なことから些細なことまで含めて、遠慮した行動を取ります。子どもの頃から、男のように率直な発言をしたり、積極的になったり、男性より権力を持つのは間違ったことだというメッセージを受け取って育つので、自分が達成できることを低く見積もるようになります。そして、数々の失敗を恐れ、挑戦する前から諦めてしまうのです。
これほど成功しているシェリルですら、女性が陥りやすいパターンで失敗をしてきたし、今でも時おりするというのです。そんな自分の心理を自覚したうえで、内面に作ったバリアを取り去り、「Lean inしろ」とシェリルはハッパをかけます(Lean inとは、遠慮して身を引いたり、傍観することの逆で、身を乗り出し、積極的に関わって行くことを意味しています)。
内面のバリアを取り去ることで女性はパワーを得ることができるとシェリルは信じていますが、フェミニストの中には(法律のような)社会体制をまず変えるべきだと主張する人もいます。それは「ニワトリと卵」のようなもので、どちらが正しいかを議論するよりも、どっちも一緒にやってゆこうではないかという彼女の意見に私も同感です。
シェリルのフェミニズムは男性を攻撃するタイプのものではなく、男女どちらもが恩恵を受ける恊働の環境を作って行くというものです。家庭で男女が家事と育児をシェアすれば女性が仕事を続けやすくなりますし、女性が働きやすい職場になれば子持ちの男性が家族と過ごす時間も尊重されるようになります。
妻がパワフルな地位につくと夫が犠牲になるというのも迷信で、家事や育児で協力しているシェリルの夫のデイヴ・ゴールドバーグは、Survey MonkeyのCEOをしています。夫婦にはふたりの子どもがいます。シェリルは、もちろん働きながら子育てをするのは大変だし、母親として失格だという罪の意識についても正直に語っています。私たちは「すべてできる」とか「すべて完璧にしなければならない」と思い込んで、落ち込みます。けれども、全部できるなんていうのは幻想であり、完璧にできなくても続けてゆくことのほうが大切なのだと彼女は言うのです。
シェリルは、ハーバード大学とハーバード・ビジネススクールを卒業し、クリントン時代の財務長官ラリー・サマーズの首席補佐官を勤め、Googleを経てFacebookのCOOになったという輝かしい経歴の持ち主です。それゆえ、「高学歴のエリート階級の女性にしか役立たない」とか「子守りを雇って働けるような恵まれた階級の女性だから言えることだ」といった批判もあるようです。けれども、それはこの本を最初から最後まできちんと読んでいない人の意見だと思います。
専業主婦もひとつの選択であり、それも仕事だとシェリルは語っています。彼女がなくしたいのは、専業主婦対働く母親の対立であり、女性同士が足を引っ張り合うことです。これには、大いに賛成です。
妊娠中にYahooのCEOに就任したマリッサ・メイヤーが産休中に働くことを宣言したときに、多くのフェミニストが「他の女性が産休をとりにくくなる」と攻撃しました。けれども、彼女の夫が育児を引き受けるのですから、それでいい筈です。男女の役割が逆だったら、誰も非難はしなかったでしょう。
「女の敵は女」という現象には、女の私たちがブレーキをかけるべきなのです。
「キャリアウーマンじゃない人には関係ない本」というのも、的外れの批判です。シェリルはこう言っています。
Conditions for all women will improve when there are more women in leadership roles giving strong and powerful voice to their needs and concern.
エリートとは無縁の人生を送ってきた私ですが、シェリルの言葉には何度も頷きました。キンドルにマーカーをつけ過ぎて、後で引用したい言葉が見つからなくなってしまったほどです。
特に8章の「Make Your Partner a Real Partner」は、外で働いている女性、専業主婦、そしてそのパートナー全員に読んでいただきたい部分です。他にも男女が互いを理解して助け合えるきっかけになる箇所が沢山ありますので、ぜひ職場や家庭で一緒に読み、腹を割って語り合ってみて欲しいです。
ところで、「Meg Whitman、やはり想像どおり嫌なヤツだったのね。」というのは、オマケの感想です(笑)。Madeleine Albrightが「There’s a special place in hell for women who don’t help other women」と言ったそうですが、Whitmanにはhellに特別席が用意されていそうですぞ。
●読みやすさ <中級レベル>
ネイティブの普通レベルで、とても読みやすい本です。
高校で英語が得意だった方でしたら辞書をひかずにだいたい理解できるのではないかと思います。
来週の火曜日に、NHKの「クローズアップ現代」で取り上げられるようです。どんな内容になるのか楽しみです!
http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/#3377
投稿情報: Tomoyuki | 2013/07/05 18:11
Tomoyukiさま
ブログ拝見しました。
私も自分の過去を振り返ると、キャリア(という感じじゃないですが)はしごじゃなくてジャングルジムです。夫もそうですから、ここは男性にも「なるほど」というところですよね。
何よりも、助け合ってゆかないと、家庭も社会もダメになってしまうと思うのですよね。ですから、あそこまで頑張る必要がなくても、誰にでも応用できそうな気がしました。
これからもどうぞよろしく。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2013/04/09 04:27
読みました! 女性の社会進出が進まない背景を、本当に的確、明確に説明していると思いました。また、働く女性向けの本なのかな、と思って読み始めたのですが、そんなことは全くなく、男性の私でも「なるほどなぁ…」と思う箇所が本当に沢山ありました。とてもいい本ですね。
ブログにも感想を載せましたので、よろしければご覧下さい。
http://irish.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/lean-in---women.html
投稿情報: Tomoyuki | 2013/04/08 23:54
Tomoyukiさん、
お読みになった感想もぜひお聞かせくださいね!
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2013/03/16 09:30
とても興味深そうだったので、早速注文しました! 今から読むのが楽しみです。
投稿情報: Tomoyuki | 2013/03/16 09:07
Rie156さん、
翻訳書出るようですからお楽しみに。
きっとラッシュでやってますから、そんなに待たずにすむと思いますよ。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2013/03/13 04:08
読みたくなりました。翻訳待ち。
投稿情報: Rie156 | 2013/03/12 23:21