Will Schwable
ハードカバー: 352ページ
出版社: Knopf (2012/10/2)
ISBN-10: 0307594033
ISBN-13: 978-0307594037
発売日: 2012/10/2
回想録/エッセイ
2012年「これを読まずして年は越せないで賞」候補作(渡辺推薦)
ジャーナリスト、文筆家、編集者という経歴を持つWill Schwableの母Mary Annは、男女の格差が激しかった時代にハーバード大学とラドクリフ大学(当時はまだ統合されていなかった)の入学選考事務局長(Dean of Admissions)を務め、引退後はパキスタンやアフガニスタンを飛び回って難民問題に取り組み、アフガニスタンに図書館を作るために奔走した女性だった。
世界各地で疾病をしょいこんでも休まずエネルギッシュに活動していたMary Annだが、73歳のときにかかった肝炎がなかなか回復せず、ようやく原因が判明したときには、膵臓がんは末期になっていた。
そして、終末期の母につきそいたい娘を説得して予定通りにスイスに移住させる。
独立心の強い母の化学療法につきそったのは、同じニューヨーク市に住む独身のWillだった。
病院で会うたびに「今、何を読んでいるの?」と訊ねるうち、母の化学療法につきそう時間がふたりの「読書会(bookclub)」になってゆく。
お互いに本を薦めあい、同じ本を読んでその感想を語り合うのである。
ふたりが選んだ本は、クラシックから話題のミステリー、ユーモア本、スピリチュアルな本と、次第にふだん読まないジャンルにまで広がっていった。
本書の素晴らしさは、「本を読む」という行為の重要さをしみじみと実感させてくれることである。
本から得ることだけでなく、親しい者と同じ本を読み、意見を交わすことで、リアルの人間の関係も深まってくるのだ。
私も娘が幼いときから同じ本を読んで感想を語り合ってきた。
彼女が幼いときには私が一方的に推薦することが多かったけれど、小学校の高学年からは、彼女のすすめで知る本が増えてきた。本について語り合うことで、ふつうの親子なら話しにくい話題についても、深く語り合うことができたし、「何でも相談できる」という信頼関係も築くことができたと思っている。
本書でもうひとつ心に深く残ったのが、Mary Annの母としての姿勢である。
幼い子供たちがいるのに責任が重い仕事をしていたことについて、息子から「子供に申し訳ないと思ったことがある?」といったことを質問されて、Mary Annはあっさり「いいえ」と答える。そして、末期がんの自分のために子供たちが人生や家族を犠牲にすることを断固として拒むのである。それほど独立していながらも、Mary Annと三人の子供たちは、とても互いのことを思い、尊敬し、愛し合っているのである。
こういう親子関係に、私は心から惹かれる。
今年ぜひ読んでいただきたい一冊。
●読みやすさ 普通〜やや読みやすい
とても読みやすい文章です。
大学で英語を学んだ人であれば、さほど苦労せずに読めると思います。
著者からの情報では邦訳も決まっているので、英語に自信がない方は邦訳版をお待ちください。
●おすすめの年齢
親の死を扱っているため、中学生以上。
こちらこそ、ご感想ありがとうございます。
また日本でみなさんと好きな本の話をしたいなあと思っています。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2013/02/01 18:10
読みました。とてもすがすがしい気持ちで読み終えました。シンプルな文章が心に沁みました。
正月休みに帰省したばかりですが、また両親に会いたいと思いました。
さすが「これ読ま」。良書を紹介いただきありがとうございます。
投稿情報: Isao_tkhs | 2013/02/01 18:06