Lawrence Norfolk
ハードカバー: 410ページ
出版社: Grove
ISBN-10: 0802120512
ISBN-13: 978-0802120519
発売日: 2012/9/4発売予定
文芸小説/歴史小説
英国でEnglish Civil War(清教徒戦争)が始まろうとしていたころ、薬草の知識で村人を助けてきたJohn Saturnallの母親は、清教徒に洗脳された村人からWitch(魔女)と呼ばれ、Johnは子供たちから残酷ないじめにあうようになっていた。
迫害がエスカレートし、母親を失って孤児になったJohnは、かつて母が働いていたBuckland館でkitchen boy(調理人の下働き)になる。母から特別な教育を受け、生まれつき味覚と臭覚に優れていたJohnは、またたくまにkitchen boyから調理人に昇格してゆく。けれども、母親と、彼女が大切にしていた本の秘密については誰も教えてはくれない。
●この本の魅力
著者のLawrence Norfolkは”Lempriere's Dictionary (『ジョン・ランプリエールの辞書 』)”という非常に風変わりな小説を書いたことで知られていますが、遅筆でも有名なようです。彼が執筆に10年かけたという本書は、今年英米で注目されている小説のひとつです。
Norfolkがこの物語を思いついたのは、Kate Colqhounの “Taste: The Story of Britain through its Cooking ”という本を読んでいたときだそうです。英国の料理は、エリザベス時代とジェームズ一世の時代には豪華絢爛たるものであり、それを支える社会的構造もありました。それが、イギリス内戦(English Civil War)により、突然崩れ去ってしまったのです。そこでNorfolkは「自分が調理人だったら、どうしただろう?」と考えこみました。
それが、この本の始まりだったのです。
JohnとLucretiaは、互いに「嫌いだけれど、気になる」関係だったのですが、領地を守るための政略結婚を拒絶してハンガーストライキをしはじめたLucretiaを説得する役割をJohnが命じられたときに急速に変化してきます。
誰かのために料理を作るのは、たったひとりのために愛の詩を書くようなものかもしれません。
Wolf Hall: A Novel やJonathan Strange & Mr. Norrell と比べる人もいるようですが、JohnとLucretiaの関係などから、私はThe Pillars of the Earth を連想しました。
欲を言えば、Johnが調理人として成長してゆくところや、戦後の調理人としての活躍の部分をもっと書いて欲しかったです。導入部分が長くて退屈だったのに対して、じっくり読みたい部分は急いだ感じがあり、残念でした。
とはいえ、歴史と食という私の好きなジャンルの本なので、十分楽しめました。日本語で「清教徒革命」として習った戦争が公式には「English Civil War」であり、Puritan Revolutionという表現がこの戦争の宗教的な解釈のひとつなのだということを、この本の背景を調べるまで知りませんでした。今でもよく分からないほど複雑な戦争なので、歴史をあまり知らない人は、本書を読むだけでは混乱することでしょう。
美味しくないことで有名なイギリス料理が、この内戦が始まる前には、洗練された豪華なものだったということは、もっと大きな驚きでした。芸術的な域に達していた英国の料理法が、戦争だけでなく、清教徒的な思想によりすっかり撲滅されてしまったというのは、なんとも残念な話です。そうでなければ、現在はフランスやイタリアと競うグルメ国だったかもしれないのですから。
私が読んだのはARCでイラストが入っていませんが、市販品には美しいイラストが入っている予定です。
下は、今ではもう僅かしか残っていない17世紀の館のキッチンで著者のNorfolkが本書について語っているビデオをご覧ください。
●読みやすさ やや読みにくい
最初のうち何が起こっているのか把握するのが難しいかもしれません。けれども半ばまでくると、突然テンポが早くなります。ですから、それまでちょっと我慢する必要があるかもしれません。
また、日常的に使われていない特殊な単語も沢山出てきます。
それらの単語については、著者がGlossaryを作っています。
でも、それらが分からなくてもストーリーを追うことはできるでしょう。コツは、分からない単語をあまり気にしないことです。
●おすすめの年齢層 高校生以上
少ないのですが性的なシーンがありますので、高校生以上
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