Elizabeth Strout
2008年3月発売
文芸小説/短編集
米国北東部メイン州の沿岸の小さな町Crosbyを舞台に、数学教師Olive Kitteridgeを軸に繋がる13の短編集。
大柄のOliveは、町の住民たちから気性が激しく、寛容がなく、頑固で批判的だと思われている。町の小さな薬局を経営する薬剤師の夫Henryは温厚な人物として誰からも親しまれているが、夫の善人ぶりはかえってOliveを苛立たせるだけだ。最初の短編「Pharmacy」では、中年にさしかかったOliveとHenryが別の異性に惹かれる微妙な心理を描いており、読者はHenryに同情心を覚えずにはいられないだろう。だが、OliveとHenry以外のCrosbyの住人を主人公とする短編で脇役として登場するOliveからは異なる人物像が浮かんでくる。現実世界では人とはそういう複雑なものである。読み進むうちに彼女の毅然とした批判精神に対して反感と同時に尊敬も抱くようになり、老齢に達した孤独なOliveのほのかな恋を描いた最後の短編「River」では、(たぶんOliveのひとり息子が感じているように)彼女の欠陥をすべて受け入れたうえで幸運を祈らずにはいられないだろう。
鬱、自殺、親子関係、不倫関係、老化といったテーマを扱った短編はそれぞれが独立したストーリーで、Stroutの卓越した語りに吹き出したり涙ぐんだりしながら、いつのまにか、これまで会った人々を思い出し、自らの人生を振り返っていた。熟練した文芸作品でありながら気取ったところがなく、深い人間理解に基づく優れた短編集である。
●ここが魅力!
有名な賞の受賞作は疑ってかかる癖があるのですが、久々に心底「これは受賞に値する!」と同感した作品です。3日間連続で睡眠時間5時間以下の寝不足だったにも関わらず深夜まで読みふけってしまいました。
最初にこの本でOliveに出会ったとき、あまりにも好感が抱けなくて「え~、これが主人公!」とがっかりしましたが、読み進めるうちにしだいに彼女に興味を抱くようになりました。Oliveだけでなく、わずかな希望や愛を求める普通の人々の悲喜劇に同情し、最後にはOliveに友達として電話をかけてあげたくなりました。
こういうことを感じさせてくれる文芸作品がPulitzer Prize(ピューリッツアー賞)を受賞したことを嬉しく思います。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文章そのものは簡潔で難解ではありません。
ただし、アメリカの文化や英語の言い回しを知らないと意図がつかめず、面白さが理解できない箇所があります。そのため初心者向けではありません。
●アダルト度 ★★☆☆☆
生々しい表現はありませんが、これらの人間関係を理解し、作品の真の良さを理解するのにはけっこう人生経験を積んでいる必要があります。たぶん高校生は読んでも面白くないでしょう。そういった意味では大人向けです。
コメント
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