著者:Thomas L. Friedman
2008年9月初刊
ジャンル:ノンフィクション/科学/時事問題
人類の抱える緊急問題と解決策がぎっしり詰まった本
Hot, Flat, and Crowdedは、地球の温暖化、人口の爆発的増加といった世界が直面する緊急問題とその解決策を提示したフリードマンの最新作である。周囲の中高年の男性はみんな読んでいる。時間に追われる知人のコンサルタントさえ移動時にiPodで聞いているというので、私も話題に取り残されないように早速読むことにした。
まずは、米国を現在の情けない状況に追いやった元凶の糾弾から始まる。レーガンにブッシュ、自動車産業など先見の明に欠ける横柄な態度の列挙は、まるでわが家の食卓での会話のようで胸がすっきりする。彼がお手本として使うホンダとトヨタにも拍手喝采したくなる。
最初はこうして自国をこき下ろすが、フリードマンのうまいところは、「最終的に米国こそが世界を救うリーダーになるべきだ」と国民の楽観的な性格とヒロイズムに訴えかけることだ。よく考えると実行が難しいことでも、「やれそう」で「やらねばならぬ」という気にさせる巧みさ、そして専門の中近東外交だけでなく世界中のあらゆる産業についての博識ぶり、これがフリードマンの魅力である。
注目すべきは、フリードマンが語るクリーンエネルギー産業の将来性である。オバマ次期大統領(現時点)が宣言したように、最初は赤字を増やしてでもクリーンエネルギーに投資するという政策が実現したら、米国には後からやってきて他国を追い抜く力がある。日本にはこの闘いにぜひ勝ってほしいが。
この楽観的でわかりやすいフリードマンの長所を欠点と考える者もいる。
イラク戦争前にメールでの交流があった東大生に「チョムスキーではなくフリードマンを読むべきだ」と薦めたところ、それ以来ぴったり音信が途絶えた。政治的にやや左よりの中道で実用主義のフリードマンの意見など知りたくなかったのか、あるいは読みやすい文章を書くコラムニストとそれに注意を払う者の知性を見下したのであろう。
私と同じ町に住むチョムスキーは尊敬しているし、フリードマンの見識を疑うこともある。だが、かのクリントン大統領も彼の意見には耳を傾けたのである。実際に米国を動かす人々が読むコラムニストを読まずして見下すのは大変愚かなことだと私は思う。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
文章そのものは簡潔で基本的に大変読みやすいのですが、山のように固有名詞や専門用語が出てきます。加えて長いのが障壁になるかもしれません。それゆえ★ひとつですが、全部通して一気に読まなくてもよいとリラックスすれば★三つくらいになります。
最初から最後まで一気に読もうとせずに、朝コーヒーを飲みながら数ページ、昼食後のお茶を飲みながら数ページ、といった具合にちょこちょこ読むのがコツです。
フィクションとは異なり、少しずつでも十分楽しめますから。
●ここが魅力!
彼の本を1冊読むと、ものすごく博識になった気分になれます。そして、国際ニュースや専門家のコメントを聞いて、反論もできるようになります。学校の授業よりもずっと役立つ社会の勉強ができます。
●アダルト度 ★★☆☆☆
国際政治や経済に興味がある子であれば、小学校高学年から読むと良いと思います。
少々難しいですが、これを読みこなしたら自信がわくでしょう。
●この本を楽しんだ方にはこんな本も……
「The World is Flat」by Thomas L. Friedman
「The World Without Us」by Alan Weisman
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