著者:John Hart
2007年10月初刊
ミステリー/米国南部
読みごたえがある文学的なミステリーを求める方におすすめの一冊
The King of Liesで彗星のようにデビューしたJohn Hartの第二作。
Adam Chaseは5年前に義母の証言により殺人罪で起訴され、有罪判決は逃れることができたが人々の疑惑は消えることがなかった。何よりも息子の自分ではなく義母を選んだ父をAdamは許すことができなかった。5年間恋人とも連絡を取らなかったAdamだが、子供時代の友達Dannyから懇願されて故郷に戻る。
だが、そこで待っていたのは、母の自殺の真相、父が母の死後につくりあげた家族との葛藤、そしてさらなる殺人事件だった。
主人公を含め、登場する者すべてに弱みがある。みな、過ちを犯し、嘘をつき、傷つく。だが、それを許し、受け入れ、癒されることができるのも人間である。抒情詩のような美しい文体と、南部の男流のハードボイルドさが微妙にマッチして、特別な雰囲気をかもし出している。
ミステリーとしてだけではなく、純文学としても楽しめる。
●ここが魅力!
登場人物の本物さ。善悪の白黒がはっきり分かれているミステリーはつまらなく思えることがあります。実際の人間はそんなに単純なものではありません。本当のことを言えずに嘘をつき、けれども他人の嘘は許せない。男のわがままに女のわがまま。Hartはそんな人間の哀しさを描いたうえで、許しもちゃんと与えてくれます。
●読みやすさ ★★★☆☆
★★と★★★の中間といったところでしょう。普通のミステリーとは異なり、詩のような描写が多いのです。
たとえばこんな感じです。
I stood at the window and looked at the river. It was not the one I loved. Different color. Different shores. But the water moved. It wore things down and it restored itself, emptied into the same vast sea.
これにどれほど多くの意味が含まれているのかは、本作を最後まで読まないとわからないようになっています。
けれどもいったん慣れると、とても読みやすく思えるでしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆
大人向けの普通のミステリー程度のアダルト度です。セックスとバイオレンスはありますが特に生々しいところはありません。
●この本を楽しんだ方にはこんな本も……
コメント
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