著者:Neil Gaiman
2006年8月初刊
児童/ファンタジー/ホラー
2月に映画公開するゾクゾク不気味な児童書
私の娘が小学校五年生のときの担任は、元ロックミュージシャンとは思えないほどきちんとした身なりで、教室は美しく整理整頓され、しかも言葉遣いが非常に丁寧で上品な青年だった。
その彼が活発な小学生をおとなしくする方法として本を朗読するのだという。11歳の男の子すら静かにさせる朗読など想像もできなかったが、娘は「先生が読み始めると、教室中がしんとする」と断言する。この先生が読んだ本のひとつが「Coraline」であった。
主人公のCoraline(コラライン)と両親は、古い屋敷をアパート(イギリスなのでflat)に分けた新居に引越しする。お屋敷には変わり者の隣人たちや、どこにも通じていないドアなど奇妙なものがそろっている。退屈した彼女が探検に乗り出したところ、現実の世界とよく似た不気味な陰の世界に迷いこんでしまう。そこで彼女が出会ったのはその世界でのコララインの母だという蒼白で目がボタンで出来た女性だった。どうにか現実に戻ったコララインだが、そこで両親が陰の世界に閉じ込められてしまったことを知る。コララインは両親を救助するために出かける。
「Stardust」と「Neverwhere」の作者Gaimanは、おとぎ話のようなファンタジーに独自のダークさを与えるのが特長だ。「Coraline」は、容赦を知らぬ暗いパラレルワールドにヒロインが勇敢に挑むところが「Neverwhere」に似ている。児童書であってもあまり怖さの限度を考慮していないのがGaimanらしい。多くの人の心に潜んでいる恐怖心を掘り起こし、(小さな子供なら)悪夢でうなされそうな、本物の恐怖を与えてくれる。
Caroline(キャロライン)ではなくCoraline(コラライン)だということが文中にも出てくるが、これも不気味なパラレルワールドを象徴する作者の手なのだろう。
●読みやすさ ★★★☆☆
9~12歳対象だが、おとぎ話のような語り口やときおり現れる(こちらの)小学校では習っていない単語に難しさを感じるかもしれません。ヤングアダルトのTwilightのほうがずっと読みやすいというのは皮肉なものですが、Gaimanの語り口にすでに慣れている人には、簡単に感じるでしょう。
●ここが魅力!
Gaimanが描く世界はいつも、空想家の子供が半分夢見、半分恐れている、非現実の世界です。現実から離れ、徹底的に空想の世界に入り込んでしまえるのが魅力です。
Coralineは、洋書を完読したい人には、「怖くても次になにがおこるのか知りたい」という読書のモチベーションを与えてくれる本です。また、ホラーといっても児童書でマイルドなので、私のようにふだんホラーが苦手な方でも大丈夫です。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
悪夢を見るタイプの子供、低年齢の子供は避けたほうがよいでしょう。
●この本を楽しんだ方にはこんな本も……
「Stardust 」by Neil Gaiman
「The Graveyard Book」by Neil Gaiman
「Neverwhere」by Neil Gaiman
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