2007年初刊
ジャンル:SF/ファンタジー/フィクション/魔法・魔術
The Name of the Wind (The Kingkiller Chronicle, Day 1)
クラシックとして残るべきファンタジーの傑作。ファンタジーファンはこれを逃すべきではない。
さびれた村の宿屋「Waystone Inn」の店主に身をやつしているKote(コート)は、実は「王殺し」として悪名高い、伝説の魔法使いKvothe(クォーテ)だった。彼の真相を知るのは弟子のBastだけだったが、平和な村に不気味な出来事が起きはじめ、それに引き続いて伝記作家がKvotheを追って宿屋に現れる。
最初は伝記作家の申し入れを拒否していたKvotheだが、すべて彼の言葉のまま記すという約束のもとに彼の半生を語り始める。「The Name of the Wind」は、彼が3日にわたって語る半生の第1日目の部分である。
天才的な頭脳と音楽の才能に恵まれていたKvotheは、幼いときに謎のChandrianに両親を殺され、ホームレスとして生存のためだけに戦う。そこからようやく抜け出し、「University」に最年少で入学することに成功したが、才能があるゆえに敵を作り、体制を重んじない頑固で潔癖な性格のために何度も危機に陥る。
音楽を愛し、好きな女性に告白できず、弱者には優しい少年が、最もパワフルな魔法使いになり、悪名高い「王殺し」として伝説化し、ついに魔力を失うまでの波乱の人生を描く超大作。
ハリー・ポッターと比較する者も多いが、この作品は作者のRothfussが20年かけて書き上げたものであり、ハリー・ポッターから影響を受けたと思える部分はない。また正義感が強いという意味ではハリーと似ているものの、Kvotheは自分のサバイバルのためや嫌な奴への復讐のためであれば平然とルールを無視する欠陥がある。天才的な能力を持ちながらも、好きな女性の前では典型的に「自信のない少年」になってしまう人間的なヒーローに、読者はかえって親近感を覚え、魅了されることだろう。
「Quill Award」受賞作。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
英語のネイティブでない人が読みにくく感じるのは、彼の文章があまりにも詩的だからです。魔法のアクションが出てくるまでに相当読み進めなければならないので、最初の100ページくらいで投げ出したくなるかもしれません。また、これはKvotheの語りなので、途中で現在の宿屋の場面に戻ることがあり、それも障害になるかもしれません。
けれども、途中であきらめないでください。
取り付きにくいと感じる方には、一回目どんどん飛ばして読み、あらすじが理解できたらもう一度読む、という方法をお勧めします。
深刻な部分だけでなく、Kvotheの弟子らしきBastとのやりとりや文中の歌詞など、ユーモアに満ちた部分も沢山あります。
読みにくくても、読み返すたびに楽しめる、優れた作品です。邦訳されると失われてしまうよさを知るためにも、ぜひ原語で読んでください。
●ここが魅力!
近年読んだファンタジーの中で最も優れた作品。
大学で化学工学を専攻した経験がある作者ゆえに、フィクションの魔術に説得力があります。彼の文章を読んでいると、実際そこにいるかのように魔術がはっきりと見えてきます。また、意外なのは文章の美しさです。Kvotheの奏でる音楽の美しさ、宿屋をつつむ静けさ、Kvotheが恋する女性の描写、どれをとってもまるで抒情詩を読んでいるようで、うっとりします。単なるファンタジーではなく、文芸作品として扱われるべき作品です。
クリスマスに19歳の甥(アメリカ人)にプレゼントしたところ、これまで一度も電話をかけてきたことのなかった彼が学校から携帯で「今日いちにちずっと読んでいた。すごくいい」と興奮気味に報告してくれました。
●アダルト度 ★★☆☆☆
ハリー・ポッターとは異なり、大人を対象として書かれたものです。文章は取り付きにくいと思いますが、SF好きの子供であれば、十分楽しめる内容です。
●この本を楽しんだ方にはこんな本も……
「Harry Potter」 by J.K. Rowling
「Ender’s game 」by Orson Scott Card
「The Left Hand of Darkness」by Ursula K. Le Guin
「The Blade Itself」 by Joe Abercrombie
コメント
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