2008年初刊
ジャンル:ノンフィクション/時事問題
ローリングストーン誌のコラムニストとして有名なMatt Taibbi(マット・タイビ)が、現在のアメリカのかく乱(derangement)を鮮やかに描いた傑作なノンフィクション。
ブッシュ大統領のもと、過去8年間のアメリカ合衆国は、イラク戦争から捕虜の拷問まで他国から「かく乱している」と思われても仕方のない行動ばかりとってきた。
他国の人々はアメリカ合衆国とその住人をひとまとめに評価するが、実際ここに住んでいる者にとっては、Blue States(民主党が強い州)と Red States(共和党が強い州)では人々の考え方が根本的に異なる。ひとつのアメリカなどは存在しない。
私のようにBlue Stateのインターナショナルな地域に住んでいると、アメリカのどまんなかの村から一歩も外に出たことがない田舎者が何を考えているのか想像もつかない。
けれども、そういう「アメリカのどまんなかの村から一歩も外に出たことのない田舎者」が、過去8年間のアメリカ合衆国の方向性を決めてきたといっても言いすぎではないのである。まったく不条理の世界なのだ。
この本で紹介されるのは、2001年9月11日の同時テロに対する米国政府の陰謀説を信じているグループやborn-againと呼ばれるキリスト教原理主義者のグループである。左派であれ右派であれ、極端な方向に偏った人々はどちらもかく乱しているのだが、内部に入り込むと彼らはおかしくて、そして哀しい、普通の人々なのである。
とくに興味深いのは、Taibbiがキリスト教原理主義の教会に新入りの信徒として入り込んだ体験である。背景を少しでも知る人は、腹を抱えて笑うことだろう。
Taibbiは歯に衣を着せないライターなので、普通の人々のおろかさを容赦なく描いているが、そういうおろかな人々であっても、政治家であっても公平に扱うという点では、尊敬に値する。
肩に力をいれずにアメリカの「いま」を学びたい方におすすめの一冊。
●読みやすさ ★★☆☆☆
まるで会話のような調子なので、現代の話し言葉に慣れている人には読みやすいと思います。でも、正統的な英語を学校で学んだ方にとっては、”Fuck you, you prick!”, “Left-gatekeeper cocksucker!”, “Calm the fuck down”といった会話が頻発する文はかえって読みにくいかもしれません。
また、政治に興味がまったくない方は頻繁に現れる固有名詞で躓く恐れがあります。
ノンフィクションのよいところは、最初から順番に読む必要がないことです。面白そうなところから読み始めて、気に入ったら別の部分を読めばそれで十分です。
●ここが魅力!
アメリカの現代を分析した本は沢山ありますが、Matt Taibbiの「The Great Derangement」ほど辛らつなユーモアにあふれた本はありません。「そのとおり!」と腹をかかえて笑い、そしてムカムカ腹を立て、そして読んだ後、しみじみ現況のなさけなさに落ち込みます。
オバマが大統領に当選した現在なら、最後の「落ち込み」を避けることができるかもしれませんが、この本に登場するようなアメリカ人がまだまだ沢山残っているから4年後にサラ・ペイリンが戻ってくる可能性は否定できません。
●アダルト度 ★★★☆☆
政治やアメリカに興味がある子なら小学生や中学生から読めますが、ここで描かれている状況のおかしさを理解することはまず無理でしょう。
●この本を楽しんだ方にはこんな本も……
「Hot, Flat, and Crowded」 by Thomas L Friedman
「God is Not Great」 by Christopher Hitchens
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