水泳のことで私のブログを訪問される方が増えてきたようですので、ちょっと付け足したいと思います。
私たちが娘に水泳をさせたのは、「将来一緒にサーフィンをする」というのが夫の夢だったからです。娘が幼いときに夫が私に「プールに連れて行って水に慣れさせてくれ」とうるさく命じたのは、典型的な日本人の私が海で泳げない人だからです。私はプールであれば足がつかなくても大丈夫ですが、海で波が出たとたん怖くておぼれそうになります。だから海では夫のひとり遊び。娘が泳げるようになることに夫がこだわったのは、「一緒に海で遊びたい」からだったのです。
もうひとつの理由は、人生を楽しむためにはいろんな遊びができたほうがいいからです。北米の人と旅行に行くと、私だけが海の深いところに行けなくて、悲しい思いをします。こちらでは肥満体の人でも80歳くらいの老人でも平気で波にぷかぷか浮かんで楽しそうに遊んでいます。それを見て、私はいつも悔しい思いをしているのです。
でも、いきなり水泳教室やチームに入れたわけではありません。1歳未満から4歳までの間は、ただプールや海に連れて行って、水に慣れさせていただけです。4歳のときに一応始めた水泳のレッスンも親が一緒の「顔を水につけてみましょ~」、「足をバタバタさせて~」の程度です。競泳の世界に関わるようになったのは、ただの偶然です。知っていたら、たぶん始めていなかったでしょう。
競泳の世界を10年間経験し、オリンピック選手とその親を直接知っている親として、小さなお子さんに水泳を習わせようとしている親御さんたちに私が学んだことをいくつかお話ししたいと思います。
1.早期に始めても、10歳以降に競泳を始めた子に追い越されることが多い。また、自分でやりたくて始めた子のほうが伸びる。
近所に住む娘よりひとつ年下の少女は10歳くらいまで体操をしていたのですが、怪我をして水泳に切り替えました。その当時にはターンの仕方も知らないほどだったのですが、12歳で6歳に始めたシリアスな競泳者たちを抜くようになりました。他にも、12歳くらいからシリアスに競泳を始めて16歳で全国大会の出場権を得た子もいます。
2.早い時期に栄光をおさめると、途中で挫折してやめるケースが多い。
私の娘は8歳でニューイングランド地方の平泳ぎ2種で優勝し、以降13歳くらいまでずっとニューイングランド地方でランキングの上位に位置してきました。国際大会の年齢別で入賞したこともあります。思春期で身長が伸びてゆく子に追い越されるつらさとコーチからのプレッシャーに負けずに自尊心を保ち続けるのは難しいものです。8歳のころにニューイングランド地方で上位に入っていた子のリストを見ると、多くの子が現在泳いでいません。
4.才能があっても泳ぐことを楽しんでいない子は、たとえ競泳で成功しても、のちに大きな問題を抱えて人生に挫折することがある。
娘が昔属していたチームからオリンピック選考大会に出場し、スカウトでプリンストン大学に入学した少女を知っています。親とコーチからのプレッシャーで泳ぎ、精神的にちょっとおかしくなっていた彼女は、学業で挫折し、アルコール依存症になり、大学から切捨てられました。その他にも、このチームに属していた多くの少女が現在でも拒食症などの心理的な問題を抱えています。
5.才能は生まれつきのもの。親やコーチの役割はその才能を殺さないよう大切に育むだけのこと。みんなある程度の才能は持って生まれているが、天才は「突然変異」のようなもので平均的な人間とは異なる。「天才は作れない」ということを自覚しないと才能だけでなく子供の人生を殺すことになる。
娘より6ヶ月年上のオリンピック選手を彼女が7歳のときから知っています。
もともと泳ぐのが大好きで、海で泳ぐことから始めた子です。それについては過去のブログに書いていますが、泳ぐことが好きで好きでたまらない!という子なのです。でも、彼女の弟はスイマーとしては非常に凡庸な才能しかないようです。もうひとつの例は、一卵性双生児の少女2人です。親はどちらも同じように育てていますが、一人は全国大会の出場権を得るほどの才能で、もう一人はどんなに頑張ってもひとつ下のレベルの大会にしか出ることができません。つまり、才能とは生まれつきのものなのです。
問題は、親が子供を天才に育てよう、とやっきになることです。
6.なぜ子供に泳ぎを教えたいのかを自問すること。
2歳や3歳の子にスパルタ式の水泳レッスンを受けさせたがる人がいるようですが、そんなことをしても何の役にも立たないだけでなく、心理的に深い傷を負わせ、水泳嫌いを育ててしまう可能性があります。泳ぐ楽しみを学んで欲しいのであれば、一緒に水を楽しむことから始めましょう。レッスンはもっと遅くからで十分です。
また、レッスンを始めるとしたら、「楽しい」場所を選びましょう。楽しければ、いつか自分のほうから「競泳をしたい」と言い出します。もしあなたのお子さんにオリンピック選手になるような才能があるのであれば、それからでも十分間に合います。
私の娘が他の水泳ママたちを見て言っていたことです。「あのお母さんは、他人に自慢をしたいから子供に泳がせている」。競争の激しい世界に入り込むと、どんなに心がけていてもつい自分を見失うことがあります。そんなとき、胸に手を当て、「私はわが子のために行動しているのだろうか?それとも自分のエゴのためだろうか?」と自問してみるのは大切なことだと思います。これは私自身の体験から申し上げることです。
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