最も最近の意識調査では、民主党大統領候補のバラック・オバマと共和党候補のジョン・マッケィンの支持率がほぼ同じという結果が出ています。
戦争、不況、ガソリン代高騰…とブッシュ大統領や共和党に対するアメリカ国民の不満が募っているというのに、なぜ今回の大統領選が民主党にとって安易な勝利に結びつかないのでしょう?
安易な勝利を妨げている最も大きな原因は、民衆党内の諍いなのです。現在の民主党には3つのDynasty(大家族または族ともいえます)があります。最も由緒あるケネディ族、そして90年代、民主党を経済的に中道に導いたクリントン族、そしてそれらの古い民主党とは異なる理念や政治スタイルを目指すオバマ族の民主党内での権力闘争は、少々のことでは癒えない深い傷を作っています。
ケネディ一家は、プライベートでは恵まれた贅沢な生活をしていますが、政治的には常に黒人の人権、貧困者の救済、医療と教育の平等な提供のために戦ってきた庶民の味方です。マサチューセッツ州選出で2004年の民主党大統領候補だったジョン・ケリーは、家族ほど近しくないもののケネディ族といえるでしょう。
いっぽうビル・クリントンは、黒人たちから「初めての黒人の大統領」と呼ばれるほど黒人の人権のために働いてきましたが、経済政策的には共和党に近い中道派です。国民にはロックスター並みの人気があったものの、彼の一族に属さない民主党員にとっては、古くからの民主党の理念を無視する個人プレーヤーだという苦々しい思いがあったようです。クリントン時代の副大統領アル・ゴア、そして史上初めての女性下院議長のナンシー・ペローシーは、クリントン族のやりかたに決して馴染まなかったきまじめな左よりの代表です。
そして、現在の民主党全国委員長のハワード・ディーンをはじめとするケネディ族にもクリントン族にも属さない新しい流れが両手を広げて迎えたのがバラック・オバマです。インターネットで若者や無所属を集めたハワード・ディーンの信念をそのまま受け継いだのはオバマと言えるでしょう。ディーンの支持者の多くもそのままオバマに移っているようです。彼らは、古くからの民主党のやり方に不満を抱いています。活気はありますが、自分たちが一番正しいと考えている高慢さも否定できません。
実は、このオバマ族のクリントン族に対する高慢さと無礼がヒラリー・クリントン自身よりも彼女の熱狂的な支持者たちを激怒させているのです。予備選では、1800万人もがヒラリーに投票しています。ヒラリーの支持者にとっては、投票者が選んだのはオバマではなくヒラリーなのです(フロリダ州などの票をすべて数えればヒラリーの勝利だったと考える支持者はいまだに多いようです)。それなのにオバマが候補に選ばれたことを、(特に高齢の女性は)自分自身の体験と重ね合わせて「男性社会は能ある女性を抹殺する」という怒りを募らせているのです。また、副大統領候補の選出についても、最も多くの票を得たヒラリーが無視されたことを、支持者たちは自分自身が無視されたと感じています。そして、この民主党大会でビル・クリントンの演説のテーマも彼の強みであった経済政策の達成ではなく、防衛という弱点を押しつけています。また、最もクリントン族を怒らせているのは、黒人のために何十年も努力してきたクリントン夫婦に対する予備選中の「差別者」という攻撃をまったく陳謝していないことです。
こういった民主党の内戦のためにジョン・マッケィンが大統領になったとしたら、この国の将来は真っ暗です。けれども、コメディアンのビル・マーが言うように「最終的に国民は彼らがDeserveする大統領を得る。国民が馬鹿なら大統領もそれに見合った大統領になる」ということでしょう。
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