著者:Andy Weir
ハードカバー: 368ページ
出版社: Crown
ISBN-10: 0804139024
発売日: 2014/2/11
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:中級レベル(科学の専門用語が多いが、単語さえ分かれば、文章は非常に平易)
ジャンル:SF
キーワード:NASA、宇宙計画、アポロ13号、火星、サバイバル
人類は新しい宇宙旅行技術を開発し、NASAはすでに火星への人類着陸と地球帰還を2度成功させていた。1960年代から70年代のアポロ月面着陸計画のように、1度めの「Ares 1」は世界の注目を集めたが、その後人々の熱意は急速に冷め、3回めのミッションであるAres 3への一般人の感心はほとんどなかった。
Ares 3は火星上で突然の激しいストームに襲われ、宇宙飛行士のMark Watneyは、アンテナが突き刺さった状態でストームに吹き飛ばされてしまった。宇宙服に穴が開いたらすぐに閉じない限りは死亡するし、Markのバイタルサインを報告する計器は血圧と脈拍がゼロになったことを示していた。船長はそれでもMarkを探そうとするが、ストームで船が転倒する可能性が高まり、船と残りの乗員を救うために離陸を決意した。
だが、Markは奇跡的にも生き延びていたのだ。
いっぽう、NASAで火星の表面を観察していた女性エンジニアが通常ではないアクティビティに気づき、上官にMarkが生きていることを報告した。すでに国葬が行われていた宇宙飛行士が生きていたことが分かり、世界は彼の救出作戦で盛り上がる。だが、NASAはMarkが生還する可能性がほとんどないことを知っており、メディア対策と救出計画に追われる。
著者のAndy Weirは子どもの頃から宇宙計画の大ファンで、しかも15歳のときからアメリカの国立研究機関でプログラマーとして雇われていたという、根っからの「科学オタク(science nerd)」である。
本書は、もともとはWeir(ウィアー)が自費出版したもので、それが口コミで伝わって爆発的な人気になり、大手出版社(ランダムハウスのBrown)から発売されることになったのである。
私が読んだのは、ランダムハウス版ではなく、オリジナルの自費出版バージョンである。後でちょっと比べてみたが、プロットはそのままのようだが、プロの編集が加えられているので違うところがある。
本書の最大の魅力は、主人公Markの創意工夫である。しかも、科学オタクが書いたものだから説得力もある。まったく素人の私でも、「おお、そうなのか!」というウンチクが楽しめるし、科学の知識がある人ならば、「ようやく、インチキではないSFが登場した」と嬉しくなるだろう。なんせ、この作品を口コミで広めたのは、宇宙オタクと科学オタクなのだから。
内容は、映画『アポロ13号(Apollo 13)』と『ゼロ・グラビティ(この邦題は嫌いだけれど仕方がない。本当の題名はGravity)』と『ロビンソン・クルーソー(Robinson Crusoe)』を合わせたような感じである。徹底的に前向きで下品なジョークが好きな主人公が難題に次ぐ難題を解決してゆくのが面白い。
ただし、難題と解決が繰り返されるうちに、科学オタクではない読者はちょっと飽きるかもしれない。科学オタクにとっては異なる問題で面白いと思うのだが、そうでない人には同じようなパターンに感じるだろうから。
そういう問題点はあるものの、近年よく売れているいい加減なファンタジーに比べると、ずっと褒め称えられて良い作品である。オリジナルには女性読者がムッとするような下品ジョークがあるけれども、それはランダムハウス版では消えているのではないかと思う(確かめてはいないけれど)。
(下品ジョークを除けば)科学が好きな中学生にもお薦め。
Blancasさま
ご感想、ありがとうございます。
私と同じでしたね!
大手出版社(crownはランダムハウスの一部)から出すときにスッキリ整理されるのかな?と思っていたのですが、けっこうそのままだったようですね。
でも、読後感がよいのは嬉しいですね。ここまで読んだんですから!
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2014/02/22 04:34
次から次に難題が持ち上がり、これを快刀乱麻のごとく解決してゆく前向きな主人公の活躍と、論理的に説得力ある解決策の数々は、途中で中断するのが惜しくなる程興味を繋ぎます。
但し、上手く行きそうに見えた頃に難題が降りかかって来る展開は、御都合主義に見えはじめ、次はこう来たかと最初の頃は感心して読んでいても、確かにそのうち飽きてきます。
感心したのは終盤付近のクライマックスの盛り上げ方。将に手に汗握る展開。途中の停滞感が吹っ飛び、すっきりした読後感になれます。
投稿情報: blancas | 2014/02/21 19:05