Those Who Save Us
著者:Jenna Blum
2004年初刊
ジャンル:純文学/歴史(第二次大戦-ドイツ)
平和になっても自分を罰し続ける哀しい生存者たち
十五年ほど前、香港に住んでいるときに欧米からの駐在員が多いカントリークラブで「出身地対抗テニス大会」に参加したことがある。そのとき、ドイツチームが得点するたびにブーイングが起こり、失敗するたびに拍手が起こるのに気づいた。そのときに思い出したのは、英国に住んでいるときに知人が戦争の記録映画を見て「ドイツ人は残酷な民族だ」と憎々しげにつぶやいたことだった。
欧州は、ドイツの過去を完全に許すことができないのだろう。
アメリカ合衆国でも、ユダヤ人生存者とその子孫がドイツ人の犯した罪を公に糾弾できるのに対して、ドイツ人生存者やその子孫は自分たちの立場を弁護できない。ナチスの将校として平然と多くのユダヤ人を殺害した者もいるだろうし、ユダヤ人を売り飛ばした者もいるだろう。だが、ユダヤ人を愛した者や命がけで救おうとした者もいたのだ。それでもドイツ人であるかぎり、一様に彼らは民族の罪を背負わされ、罪悪感に無言を強いられる。
第二次大戦で同じく「悪者」となった日本人も、本や映画で何度も糾弾されてきた。「Those Who Save Us」は、映画「硫黄島からの手紙」のように、戦争の犠牲になったのは敵国の者ばかりではないことを訴える。
ミネアポリスの大学で歴史を教えるTrudieは、老いた母親のAnnaとぎこちない母娘関係を持っている。母親がかつてナチスドイツの将校の愛人で、自分はその将校の娘ではないかと疑うTrudieだが、Annaはかたくなに沈黙を守る。
ホロコーストの生存者であるユダヤ人の証言はよく知られているが、ドイツ人平民の証言はほとんど存在しない。Trudieは第二次大戦を経験したドイツ人移民から証言を集める調査研究を始めるが、それは自分が気づかずに抱いてきたドイツ人としての罪悪感との闘いでもあった。
1990年代のTrudieと戦時中のAnnaの生活が平行して語られ、娘が知らない母親の過去が読者にはだんだん明らかになってくる。Annaの不運な人生と娘を守るための試練には何度も目頭が熱くなる。「なぜ娘に真実を教えてやらないのか?」と歯がゆい思いがするが、物語の最後にその理由が明らかにされる。
著者のJenna Blumは、ユダヤ人の血が混じるドイツ系アメリカ人であり、スピルバーグ監督の「Survivors of the Shoah Foundation」でホロコーストの生存者の証言を集めた経験がこの本で生きている。
ニューヨークタイムズ紙ベストセラー作。
日本でも読んで感動した人がいるようなので、ぜひ邦訳されてほしいものだ。
現時点でAustralia, Brazil, Canada, England, France, Italy, Israel, Norway, Spainでの翻訳出版が決まっている。
作者に連絡を取りたい方は私まで [email protected]
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