iPadの発売で、日本でも「iPadは雑誌や新聞の救世主ではないか」という期待が高まっているようです。
そういった期待に応えるかのように、Popular Scienceという最も良く売れている一般向け科学雑誌が、iPad のAPP版、Popular Science+を発売しました。
iPad向けの雑誌がどのように開発されたのか、それを紹介するビデオをご覧下さい。
Mag+ live with Popular Science+ from Bonnier on Vimeo.
なかなか興味深いですよね。これに対する業界の期待も高まっているようです。
しかし、その後でO'Reilly の"Why iPad Adaptation is an Uphill Battle for Incumbent Publishers"を読むと、まったく異なる景色が見えてきます。
このビデオでは分からないことなのですが、実はこの雑誌に載っている広告のURLにハイパーリンクがないというのです。広告だけではありません。雑誌の中に出てくる興味深いガジェットをクリックしてもその内容が紹介されませんし、URLをクリックしてもそこに飛ぶこともできません。つまり、ユーザーにとっては紙媒体の雑誌が画面に載っているのと同じなわけです。
このブログ記事はこんな感想を述べています。
...this was clearly intended as a better/new/different version of the magazine, and so it suffers the fatal flaw of having to carry a ton of the baggage of the old medium into the new one.
「これは明確に(現存の)雑誌の新しく、異なる、より良いバージョンを狙っているのである。それゆえ、旧媒体の重荷を新媒体に持ちこんでいるという致命的欠陥がある」
これは非常に鋭い指摘だと思います。というのは、古い発想のリサイクルで、読者を失いつつある雑誌や新聞が救える筈がないからです。
この記事で私が特に大きく頷いたのは以下の部分です。
I would bet that most of the executives around the table at Popular Science were absolutely thrilled with this app. And that's the problem. I have an informal filter on how interesting and innovative a new content-related development or device is -- if a large number of people from incumbent companies (especially big ones) are excited about it, then it's not actually interesting or innovative enough to matter much, because that means it's too similar to the current way of doing things. That's why the industry loves "enhanced ebooks" at the same time they're totally missing opportunities to re-imagine the "job" their product does for the customer. (In all fairness, we struggle with this a lot at O'Reilly too!)
「もし現存の企業(特に大手)の大部分の人々がこれ(Popular Science+)に興奮しているとしたら、実際には変化を起こすほど興味深くないか、あるいは革新的ではないということである。つまり、これまでやっていることとそう変わらないということだからだ。ゆえに業界は「改良された電子書籍」を愛するのであり同時にカスタマーに対して彼らのプロダクトが果たす「役割」を新たに発想する機会を完璧に逃しているのである」
これは電子書籍の導入で盛り上がっている日本の出版界にも耳が痛い部分ではないでしょうか?
先日私は「iPad体験記」に「現時点ではカラー雑誌を画面で読むくらいなら、無料のネットで検索してしまう人のほうが多いかも」と書きましたが、この記 事を読む限りは、わざわざ4.99ドルも払ってPopular Science+をiPadで読むより、インターネットでハイパーリンクのついた無料のブログ記事を探してしまうでしょうね。
また、もっとも大切なのは「カスタマーの視点」です。作り手側の「こういうのを作りたい」とか「作りやすい」という発想から作るかぎり、読者からそっぽを向かれてしまう。やはり、大企業のトップが「それはリスキーすぎる」と眉をしかめるほど斬新な発想でないと、読者を納得させることはできないのかもしれません。
つまり、e-magazineというのは、フラッシュなどを多様した一つのウェブサイトということになりますね。ハリウッドの映画などでは、作品ごとのウェブサイトがありますが、電子雑誌はそのようなものになっていくのでは。
ちなみにとてもプリミティブな電子書籍を作ってみました。目でみるのが主体ですから一種の雑誌みたいなものです。
http://tfship.net/bookstore/bkstore.html
投稿情報: しみずくにはる | 2010年4 月14日 (水) 08:10
とっても素敵なe-bookをありがとうございます。
素敵ですね〜。プリミティブなんて、とんでもない。
これはやはりKindleではなくiPadでないとダメなe-bookですね。
今度Twitterでご紹介してもよろしいですか?
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2010年4 月15日 (木) 06:56
ipadは、さすがにマックの製品だけに「遊び」に徹しています。そこが私の好きな点ですが、ただ、遊びの動きが多過ぎて、本の場合はテキストを読むのを忘れてしまいそうです。プリミティブと言ったのは、じっとして遊びの少ないという意味です。そうこうコンテンツもあっていいかな、と思います。このebookはテキストがほとんどないのでPCやマックのモニターで見てもいいと思います。
ご紹介いただければ、幸いです。Thanks in advance.
投稿情報: しみずくにはる | 2010年4 月16日 (金) 05:27
とても興味深いebookをご紹介いただき、ありがとうございます。
私は「遊び」の多すぎる本は実はあまり好きではありません。
「飛び出す絵本」というのも好きではなかったくらいです。娘が幼い時も、飛び出す絵本は2〜3回は面白がってもそれ以降は読み返しませんでした。けれども、バスの車輪が動く絵本は、♪The wheels on the bus go round and round..と何度も歌いながら動かしていましたから、作り手側はどういう「遊び」が読者に適しているかを知る必要があるでしょうね。
私は、例の"Alice for iPad"は嫌いです(好きではないを通り越して「嫌い」です)。元の作品にある膨大な想像の余地をまったく消し去ってしまうギミックだからです。
その点、清水さんの作品は読者の想像を広げるもので、素敵だと思いました。
今とりかかっている仕事(未発表の作品を読み、アドバイスする)に一段落ついたら、ebookを率先している方としてブログでご紹介させていただきたいと思います。
ところでメールいたしましたが、デリバリーエラーが出ました。私あてにメールをいただけると幸いです。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2010年4 月16日 (金) 05:52