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パナマ訪問の理由
国際的ノンプロフィット組織Earth Train(アース・トレイン)の創始者Nathan Gray(ネイサン・グレイ)氏の招待で、パナマを訪問してきました。
ネイサンは、ボストンを拠点にしたOxfam Americaの創始者のひとりでもあり、長年にわたって貧困に生きる人びとが自力でそれを抜け出す努力を援助してきました。ネイサンが強く信じるのは、社会そのものに変化をもたらすことで人びとが自分の生活を改善することであり、金や同情だけを与える「慈善」に対しては批判的です。その考え方は、オックスファム・ジャパンのビジョンをご参考ください。
これから数回にわたってパナマ体験をお伝えしますが、その前にアース・トレインについてお話ししておきたいと思います。
1980年代にネイサンがアース・トレインを始めたきっかけは、地球の環境破壊を憂慮する若者たちの要望でした。
未成年の彼らは、いくら熱心に政治家たちに働きかけても、「賢い子ね」とか「頼もしいね」といった子ども扱いの賞賛を与えられるだけで、何も行動に移してはもらえないことにフラストレーションを抱いていました。
「地球は今この瞬間にも破壊されている。大人が行動するのを待ってはいられない」という若者たちの情熱に動かされたネイサンは、自力で未来の地球を変えて行ける国際的な次世代のリーダーたちを育成する組織を作ろうと決意しました。
アース・トレインとは何か?
簡単にご説明できれば良いのですが、簡単に理解できないほど広大な構想なのがネイサンのアース・トレインです。1980年代に「次世代を担うリーダーの育成」のために始めた組織ですが、2001年には、拠点をパナマ市、キャンパスとしてパナマのMamoni Valley(マモニ峡谷)に置く、国際的ノンプロフィット団体に発展しました。
現在のアース・トレインの活動には、動物行動学者ジェーン・グドールとの恊働関係を始め、アーティストのコミュニティJanglewood(ジャングルウッド)、環境保護団体ecoReserve、先住民、研究施設、ノンプロフィット組織を資金援助するための投資会社Rainforest Capital(レインフォレスト・キャピタル)、などとの恊働関係などいろいろあります。
これら多くの活動を通してアース・トレインが目指すのは、「将来の世代たちが自然と文化、人間と環境の関係を理解して保護できるよう、リーダーを育成し、ネットワークを作ること」です。
なぜパナマなのか?
南北アメリカを繋ぐパナマは"biological corridor”(生物学的な回廊地帯)と言われています。別々の大陸だった南北アメリカ大陸が繋がったときに、この狭い回廊を通って生物が移動したわけです。東部のDarien(ダリエン)地帯は、先住民以外の人びとが殆ど足を踏み入れない未開のジャングルが広がっており、世界で最も生物多様性がある地域と言われています(ダリエン・ギャップは危険であることでも知られています)。
アース・トレインは、チャグレス国立公園と隣接したマモニ峡谷に広がる1万2千エーカー(約5千万平方メートル)の自然保護地をキャンパスにしています(下記の地図のMの場所)。(この土地を買い取り、マモニ峡谷自然保護地を作る苦労は大変なものだったようですが、その話はまた後ほど)。パナマ市に近いのですが、70年代まではダリエン地帯のスタート地点とみなされていた場所というだけでなく、カリブ海(大西洋)と太平洋が最も接近する場所の中心にあり、山脈分水界にも位置しているために研究者が非常に重視しています。
地理的重要性
上記ほど重要ではないのですが、ユニークな歴史的、政治的背景もパナマを選んだ理由のようです。
太平洋と大西洋の結節点に当たる地理的重要性から、パナマは、国際政治・経済において非常に重要な役割を果たしてきました。誰でも知っているのが、フランスを破産寸前にさせ、それを引き継いだアメリカ合衆国が完成させて軍事施設を置いたパナマ運河ですが、それ以前にも、16世紀初頭にスペインの植民地になってから独立するまで、パナマは多くの国の慾の餌食になってきました。独立後も、独裁者ノリエガ大統領による抑圧とそれに引き続く米国の侵攻など不安定な政治の影響を受けてきています。
アース・トレインが次世代のリーダーを育成する地にパナマを選んだことを、ネイサンは「皮肉な歴史的意味合いがある」と言います。というのは、パナマは、アメリカ合衆国の国防省がラテンアメリカの軍人や警察官を訓練したthe School of the Americas(SOA)のトレーニング地でもあったからです。SOAは、結果的にノリエガ大統領など多くの独裁者を生み出し、米国内でも非常に批判された存在です。
「独裁者には、『私のやり方に背くな』という悪いタイプと、『私が全ての面倒を観てあげるから、あなたたちは何も考えなくてよい』という善意のタイプがある。だが、どちらも国民のためにはならない」とネイサンは言います。
ネイサンが育成したいのは、個々が解決策を見いだし、自分で実行することができるように援助できるような「ボトム・アップ」を促すリーダーです。そこが、SOAとアース・トレインの大きな差であり、皮肉な意味合いがあるのです。
前置きが長くなりましたが、次は、いよいよアース・トレイン体験です。
アース・トレイン体験その1につづく
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