米国プリンストン在住の作家、冷泉彰彦さんから、「Hope for Japan Fair」用に2冊の興味深い本をいただきました。冷泉彰彦さんは、村上龍さん編集のJMMでfrom 911/USA レポートを連載しておられます。
『アメリカは本当に「貧困大国」なのか? 』は、帯にベストセラーの堤未果氏「ルポ 貧困大国アメリカ 」への反論とあります。堤氏のルポを読まずして大変申し訳ないのですが(日本から取り寄せるのは送料が高すぎるのでご勘弁を)、本の解説や読者レビューを読む限りでは、アメリカ合衆国の抱える問題を浮き彫りにしておられるのではないかと思います。ただ、「アメリカのマイナス部分だけを強調すると、それがアメリカの全貌だと誤解する日本人が増えるから嫌だな...」とは思ってきました。
追記:ツイッターで、米国在住のMarica-YMさん(@MaricaYM)から堤氏の「ルポ 貧困大国アメリカ 」に対して次のような感想を戴きました。
氏の貧困大国アメリカ。買って流し読みしましたが、読む気がなくなるくらい期待はずれでした。短期滞在者(旅行者)としての視点であり、実際アメリカに根を下ろして生活している人の視点ではないですね。センセーショナルな内容だし、基本的に今の日本礼賛なので、日本では受けると思いますが。(MaricaYMさんのご許可を得てオリジナルのツイートに訂正を加えました)
ルポだけでなく、政治でもそうですが、問題を簡素化して「白か黒」に分けた方が一般人に分かりやすく、受け入れられやすいという事実があります。そして、どちらの視点も描く公平なものは、あまり人気がありません。(私は堤未果氏のルポは読んでいませんので、その批判ではありません)日米どちらもそうなのですが、日本のノンフィクションでは特にそれが強いと思ってきました。たぶん、そのほうが売れるので、だんだんそうなってしまったのでしょうね。読者のメディアリテラシーを引き上げるためにも、もっと公平な視点を書くようにして欲しいと思っていますが、またそれは別の機会に語ります。
堤さんが指摘された問題もアメリカの姿ですが、それだけではないのもアメリカです。
留学してきたばかりの方はまだ生活者の視点が足りないので異なると思いますが、私のように長年アメリカで暮らしている日本人の多くは、アメリカが「白と黒」にはっきりと分けられない複雑な国であり、政治により状況が急速に変化する国だということが分かっています。その部分をきちんと理解せずに、日本人の多くがアメリカを分かったつもりになると、結果的に日本が損をすると私は思っています。
アメリカで長く暮らしている日本人には、日本人の視点もアメリカ人の視点もあり、しかもどちらか一方の「味方」ではありません。冷泉彰彦さんのfrom 911/USA レポートを愛読しているのは、そのユニークな視点をよく代弁してくれていると思うからです。
アマゾンの読者レビューでは、冷泉さんの本に対し、「オバマ政権下のアメリカの現状を、かなりオバマ寄りに書いた本」といった批判が多いのですが、これは日本に住んでいる人の偏った見方です。冷泉さんが本書を執筆されたときのアメリカ合衆国の雰囲気は、こうだったのです。それは、日本に住んでいる人には見えないでしょう。私が目を通したかぎりでは、同感する部分がとても多かったです。
さて、ルポを読むときに日本の読者にお願いしたいことがあります。
「白か黒」、「敵か味方」、「良い国、悪い国」といった結論をつけるために読まないこと。また、本に書いてある全てが「事実」であり「正しい見解」ではない、と常に念頭に置くこと。そして、1冊で1国のすべてが分かるわけがない、と自覚すること、です。
これらは、あなたが「自分で考える」ための情報でしかないのです。ですから、いろんな視点の本を読んでいただきたいです。冷泉さんは、「日本に住んでいる日本人には見えないもの」を書いてくれています。これは非常に重要な情報です。それを得るためにも、偏見なしにお読みいただきたいです。
Monkeymanさん、
実際に2冊を読み比べられたご感想をお聞かせいただき、ありがとうございます。
他の方の参考にもなると思いますので、助かります。
私も、アメリカのうわべだけを追いかけてきた日本の将来には不安を抱いています。また、アメリカ批判を読んで「日本はましだ」とあぐらをかくのも危険ですよね。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2011年5 月29日 (日) 13:15
堤さんの貧困大国アメリカシリーズと冷泉さんの「アメリカは〜」を丁度図書館で借りていて先ほど読み終わったところです。堤さんの貧困大国は確かにアメリカの真実だとは思うけど、一つ一つのストーリーが、さもアメリカ社会全てを映しだしているような語り口はちょっとどうなのかと思いました。(確かに一つ一つのストーリーはとても深刻だし放置できない問題ではありますが。)むしろこの作品を読んで心配になったのは、アメリカのうわべだけを後追いしているような将来の日本のことです。
投稿情報: Monkeyman_01 | 2011年5 月29日 (日) 09:54