今日4州(オハイオ、テキサス、ロードアイランド、ヴァモント)で行われる予備選は、その結果次第で民主党大統領候補が決定する可能性があると言われている重要なものです。というか、今年の予備選は、普段の予備選に比較して「すべての州が重要」になっています。
現時点では、勝利した州の数と「代表議員(delegates)」の数でバラック・オバマが有利ですが、今後彼がすべての州で勝利しても、過半数の代表議員数を獲得することは無理です。勝敗を決めるのは、スーパー代表議員と呼ばれている民主党の重鎮たちの票になります。彼らは、投票者には関係なく、自分の意志で候補を選べる人たちです。実際の大統領選挙で共和党候補に勝てるかどうか、というのが彼らの選択の条件になるわけですが、彼らに普通の選挙人の心が読めるかどうか、というのは大いに疑問です。というのは、4年前に民主党は「選挙に勝ちやすいだろう」という計算でジョン・ケリーを選んで失敗しているからです。どうせ負けるのなら、戦争に最初から猛反対し、若者や無所属の投票者を魅了していたハワード・ディーン(現在、民主党全国委員長)を押すべきだったのに、彼に「ばかげた候補」というイメージを与える戦略にマスコミと一緒になって荷担したのですから。
さて、マスコミがあまり語らないことですが、この選挙では「人種差別(バラック・オバマ氏の父親はケニヤ人で母親は白人)」と「性差別(ヒラリー・クリントン)」のどちらが現在のアメリカ合衆国では根強いのかかいま見ることができます。
4年前の民主党党大会のときに私はバラック・オバマに注目し、長年民主党に深くかかわってきた友人たちに「4年後はオバマだ」と予言しました。すると彼女たちは、「彼は若すぎる。経験がない。アメリカの大部分は黒人候補を受け入れる心の準備ができているとは思えない。10年待つべき」と笑いました。
その友人たちがオバマを支持するようになった現在、私の支持はヒラリー・クリントンに傾くようになりました。それは彼女が女性だから、というわけではなく、2人の討論を聞き、彼女のほうがすべての分野で深い知識と行動力を持っていると感じたからです。
また、興味深いのは、MSNBCの政治番組「Hardball」のキャスターであるChris Matthews の ヒラリー・クリントンに対するコメントに強い性差別を感じるようになったことです。最初のころにはバラック・オバマのファンだった私です。4年前に友人が「ヒラリー・クリントンのほうが勝ち目がある」と言ったとき、「彼女は好感度がよくないから」と返したのは私です。
その私が、毎日Chris Matthewsのコメントとオバマ対クリントンの討論を聞き比べているうちに、ヒラリー・クリントンのファンになっていったのです。
そもそも「好感度がよくない」という4年前の私の印象は、実は私自身が抱いたものではなく、マスコミから与えられた印象でした。実際に彼女の討論や講演会の様子をすべて(ここが大切です。ニュースで編集されたものは、編集した者の意図を反映するものだけですから、だまされます)見ると、彼女はけっこうユーモアのセンスがあり、すごく頭が良いことがわかるのです。わが娘も討論を聞いていて、「ヒラリーってものすごく頭がいいね」と好感度を高めたようです。
しかし、マスコミの討論の評価を聞くと、私たち家族が受けた印象とはまったく別のことを語っています。オバマの評価は甘く、ヒラリー・クリントンが軍事関係で意志の強さを見せると「怖い女」といった評価になり、熱意のあまり涙ぐむと、「弱いところを見せて同情されようとしているが、計算ずく」と、これまで仕事の場で多くの女性に対して与えられた性差別が噴出します。
Chris Matthewsのヒラリー・クリントンに対するコメントの例には以下のようなものがあります。(詳しくは、Media Matters For Americaのサイトをどうぞ)
"[T]he reason she's a U.S. senator, the reason she's a candidate for president, the reason she may be a front-runner is her husband messed around. That's how she got to be senator from New York. We keep forgetting it. She didn't win there on her merit. She won because everybody felt, 'My God, this woman stood up under humiliation,' right? That's what happened."
(彼女が上院議員である理由も、大統領候補である理由も、最有力候補になるかもしれない理由も、彼女の夫が女たちにちょっかいを出してきたからだ。だから彼女はニューヨーク選出の上院議員になったんだってことを、我々はすぐ忘れてしまう。彼女は実力で勝ったんじゃない。みんなが「この女性は屈辱を受けながらも夫を支えたのよ。すごいわ」と同情したからだろう?だから彼女は上院議員選挙に勝ったんだ)(注:Chris Matthewsがここで意味しているのは、ビル・クリントンのモニカ・ルウィンスキー事件)
ヒラリー・クリントンがビル・クリントンの浮気に関する同情票で勝ったというのは、極めて言い過ぎです。ヒラリー・クリントンは、同時テロの後マスコミに作られた悪い印象によりニューヨーク市の警察官や消防署員からブーイングされたことがありますが、2回めの上院議員選では彼らから強い支持を得、男性票も過半数を得て大勝利しています。敵を味方に変えることができた彼女の手腕をパワーあるマスコミがまったく無視して「同情票」と言い切るのは、差別以外のなにものでもありません。ある番組で政治に強い関心のある女性コメディアンが「この国では、人種差別よりも女性差別のほうが強い」と憤っていたのは、残念ながら事実 だと思います。
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