アジア系移民の“成功の定義”と落とし穴
「あなたにとって子供の成功の定義は?」
こう尋ねると、日本人や韓国系移民は「そりゃあ、よい大学には行って欲しいけれど……」とあいまいに言葉を濁すが、たぶん文化の差なのだろう、レキシントン町に住む中国系移民の多くはあっさりとこう答えてくれる。
「私たち中国人の間では、ハーバード大学かMIT(マサチューセッツ工科大学)でないと……という思いこみがありますね。実際同じ通りに住んでいる中国人家庭の子どもたちは、ハーバードとMITに入学したから、こちらもそうしなくちゃならないような、そんなプレッシャーがありますよ」
中国大陸からの移民である両親を持つアルバート・チェンはレキシントン町の中国系移民が目標とする存在だ。高校の最初の2年間で数学のもっとも難しい過程を終えてしまい、3年目にはハーバード大学の延長プログラム、四年目にはスタンフォード大学の遠距離授業の最高レベルを修了し、数学チームではキャプテンを務め、全国レベルの大会で数々の優秀な成績を収め、化学コンテストではニューイングランド地方大会で二位になり、高校三年生の夏休みには全米で五十人だけが選ばれるMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究プログラムに参加し、クラスメイトの誰よりも先にMITとハーバード大学の両方から合格通知を受け取った。アルバートの兄もMITに通っている。
実際にレキシントン高校からは2003年度はハーバード大学に5人、MITには8人入学しており、この数は町立の公立学校としては全国でトップレベルであり、他のマサチューセッツ州の優秀な公立学校と比較しても多い。しかし、約400人の卒業生のうち2割以上がアジア系であることを考慮に入れると、中国系移民の子弟全員がハーバードかMITに入学していないことは明らかだ。「ハーバードかMIT」を成功の定義にすると、9割以上のアジア系学生は人生の落伍者ということになってしまう。
しかも、レキシントン高校には、「わが子を良い大学に入学させる」ことを期待して他の町よりも高い不動産を買ったアジア系移民が知らない「落とし穴」がある。そこそこ優秀な生徒にとっては、大学入試というものがないアメリカの制度においては、レキシントン公立学校からトップレベルの大学にはかえって入学しにくいのである。
その理由を説明する前に、まずアメリカの大学入学選考システムを説明しよう。
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